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№231 オルレアンの少女

№231 オルレアンの少女
 ジャンヌ・ダルクは英仏100年戦争末期に現れた英雄だ。

 フランスの主権をめぐる英仏100年戦争末期(1429年),神の啓示を受けて現れた19才の少女はユリの旗をかかげ,戦いの先頭に立った。男達は奮い立ち,彼女の参加した戦いは全戦全勝であった。

 フランスに残る彼女の像はどれも美しい乙女として表現されている。今でもフランス保守派のおじさん達は,オルレアンの少女をフランスの英雄として掲げている。英雄とはどこか美しく,どこか神聖でなければならない。

 ジャンヌは神の「声」聞き,あらゆる困難に先頭に立って立ち向かって奇跡を呼ぶ乙女(ラ・ピユセル)として,兵士達の信仰と尊敬を集め,その役割を果たした。

 英雄であるためには,自らが英雄であると演じきることが必要だ。ジャンヌはイギリス軍にとらえられ,その後宗教裁判にかけられた。

 私の手元にはジャンヌの宗教裁判記録の邦訳がある。それによると,裁判では彼女が真に神の啓示を受けた者か,キリスト教会を否認する存在であるかが,問題になった。

 異端検察官は,彼女に男装を解いて,女性の服を着ることを命じたが,彼女は応じなかった。神の啓示の経過,フランス国王を支持した経過,など事細かに審問は続いた。記録を読むと,その尋問に対して,わずか19才の少女は実に堂々と答弁していることが分かる。彼女の答弁は英雄にふさわしい。

 記録から判断すると,獄中,ジャンヌは1度自殺を図っている。神の使命を受けた者が自らの命を絶つことは許されない。この自殺未遂が,人間ジャンヌの解釈にとって重要な意味を持ってきた。英雄とは何か,神聖であることとは何か,人の心を持つとは何かが,多くの文学者によって解釈されてきたのである。

 宗教裁判ではジャンヌは破門され,火あぶりとなった。火をかけられたジャンヌに対して,その衣服が執行吏によって剥がされたという伝説がある。それは,ジャンヌがただの人であることを民衆に示すためだとも言われている。