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№201 信頼の原則

№201 信頼の原則
 我々法律家の世界では「信頼の原則」という言葉がある。一定の行動を相手がとるであろうことを期待して動くことは許されるという考え方だ。例えば,交通事故では人は急には飛び出さないと信頼して良い場合がある。医師は看護婦が適切な行動をとるだろうと信頼してよい場合がある。

 何回か前に企業コンプライアンスの問題をとりあげた。大和銀行ニューヨーク支店損失事件では米国債(米国財務省証券)を簿外取引により、社員は11億ドルの損失を与えた。この事件について取締役の責任が問題となったが,不正行為を防止するための内部統制システムを構築すべき善管注意義務取締役による法令遵守体制構築の法的義務はあるとしたが、現時点でリスク管理体制の水準をもって本件の判断をすることはできないとした。

 この問題は,経営者の判断をまずは尊重するという「経営判断の原則」と「信頼の原則」とが関わっている。つまり,企業が大きくなった場合には何もかも取締役が監視することはできない。人に任せることは当然許される。

 大和銀行事件では「頭取あるいは副頭取は、業務担当取締役にその担当業務の遂行をゆだねることが許され、各業務担当取締役の業務執行の内容に疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り監督義務懈怠の責めを負うことはない」(大阪地裁平成12.9.20)

 しかし,丸投げはダメだ。経営者としては体制構築義務は必要だという訳だ。
 つまり,監視責任がある。しかし,人に任せることは許され,全てを監視する必要はない。しかし,監視体制を構築する義務はある。

 もっとも,いかなる体制を考えるかは企業の個性によって異なる。機動性を発揮するためにはあまり細かいことを監視することはできない。あるいは逆に,機動性を発揮するために自由度を高め,後できちっと監視するという方法もある。そこは,経営者の裁量だ。つまり,経営判断の原則が適用される。