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№149 行為計算否認

中小企業法務 №149 行為計算否認

 前回のブログにも記載したが,ある事情から私は税理士資格も取得し,税理士の勉強会に出席した。

 他の専門家の会議はそれはそれでおもしろい。この勉強会では「行為計算否認」という言葉を初めて聞いた。法人税法132条1項が規定しているもので「同族会社等の行為又は計算の否認」と言われるものである。これは法律的には問題なくとも,実質的に税金逃れの手段と認定できる場合には,税務署長が税務処理上はそれを否認するという規定だ。

 我々法律家は普段から「行政権力」と戦ってはいるのであるが,このような露骨に強権的規定を見るとさすがに驚いてしまう。会社法は私的自治の中でもとりわけ当事者の自治が貫かれる分野である。法律的には完全に有効であっても一方的にそれを否認できるというのは余りにも権力的では無かろうか。

 事例(H.19.7.23 裁決事例集№74 197頁)は複雑で省略するが,完全子会社が完全親会社に金利15%で劣後債務として貸し付けたという事例である。15%の金利は必然性がないため,税務署はこれを「寄付金」と認定し,「損金」にしなかった。裁決では,貸付自体は無効としなかったが,「行為計算否認」の規定を用いて通常金利0.796%を超える部分は「寄付金」として扱った。

 ここでは,契約自体を有効としていることがミソである。法律家の目から見ると,契約が実体が無く無効というのは「通謀虚偽表示」のような場合である。それを認定することは非常に難しい。そのために法人税法132条1項「行為計算否認」を利用したのだろう。これは無効とできないが,限りなく無効に近い事例の場合に更正できるようにするという条文である。その性質上きわめて限定された事例でしか適用できないと思われる。税理士の先生方の話によると,実際,「行為計算否認」の事例はめったにないということである。