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№2457 賃貸物件で出火した場合の対応

 出火は思わぬところで発生する。自社が借りている地下駐車場で自社自動車が出火するとスプリンクラーが発動したり、消化剤が自動散布されたりして大変なことになる。オフィスであれば自社は水浸しになる上、下階や隣接テナントも水浸しになってしまう。共用部分も閉鎖となり大混乱が生じる。借主としてはどのような対応が適切だろうか。

 

初動で必要なこと

 第一は事故原因と被害の把握だ。被害の把握は自社専用部分、共用部分、他社専用部分に分かれる。直ちに保険会社に連絡をとり、借家人賠償責任保険の活用を考えることになる。通常保険会社はアジャスタと言われている調査人に被害を調査させて賠償手続きを進めていく。保険会社は何でもやってくれるかというとそうでもない。このあたりは交通事故の任意保険とはかなり様子が違う。火災被害にあった場合、保険会社に任せておけば良いというような対応では不十分だ。

 

保険会社の不親切な対応「戸室」

 さらにやっかいなのは「戸室」という保険独特の考え方があることだ。これは借りている範囲、例えば●●号室、というような個別のテナントの範囲を示している。集合住宅や集合テナント場合、火災が発生すれば共用部分や隣接テナントなどに被害がでるに決まっている。ところが、火災保険側(借家人賠償保険)は補償の範囲は「戸室」の範囲に限るといってくることがある。つまり、隣接被害や共用部分は補償の範囲外というのだ。

 

失火責任法で火災の責任は制限される

 確かに失火責任法という法律があって、出火元は類焼に対しては直ちに責任を負わないでよいという明治時代に制定された法律がある。類焼の賠償額余りに巨額なので責任を制限する法律だ。保険会社の言い分は借りている範囲は「戸室」であって、お隣や廊下は借りていないという考え方だ。だから借りている範囲つまり「戸室」しか保険の対象範囲としないというわけだ。

 

東京地裁は保険会社に隣接被害、共用部分の補償を命じた

 東京地裁、令和 3年12月24日判決(2021WLJPCA12248048)はこの問題ついて判断している。共同住宅の場合、隣接建物や廊下があるに決まっている。賃貸借上の管理責任は失火責任法が適用されない。借りている以上は賠償責任が発生する。火災保険では共同住宅の特性を考慮して加入している以上、賠償範囲は「戸室」に限られるべきではないという判決だ。ごく常識的な判断だと思う。