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№1792 保険約款で苦労すること

№1792 保険約款で苦労すること

 事業に当たっては様々な保険が存在する。誰もが経験することだろうが、保険約款は詳細をきわめている上、いくつもの特約が存在する。引用も多いので結論に行き着くまでにあちこち飛ばなくてはならない。約款の文字は小さく、わざと分からないようにしているように見えるほどだ。

 実際、事故が生じた時点で保険請求してみると、支払ってもらえないという相談は少なくない。

 ある顧客では運送業者貨物賠償責任保険と違法な積載の場合は支払わないという約款をたてに、法定の高さ制限を超えるという理由で支払わなかった。

 ある事業者では火災保険が問題となったが,被害の程度が軽いというので全焼扱いしなかった。

 最近の判例でもPL保険で「Business Risk 条項」というのがあって、部品の設計上のミスであるという理由で保険会社は保険金を支払わなかった。
 この条項はかなりわかりにくい。下記に紹介するが「わからない」ということが分かればいいです。

「この保険は、被保険者のために行われて引き渡された作業が、設計、製法、仕様、広告文書、取り扱い指示書等の誤り又は不備に起因して、被保険の意図した機能を発揮できず、又は目的を達成できなかったことに起因して生じた『身体障害』又は『財物損壊』が、当該生産物又は作業の『actve malfunctioning』に起因する場合は、この限りでない。」

 この条項は米国ISOが提示した包括賠償責任保険約款(保険約款の一般的基準のようなもの)をそのまま引き写して日本語化したものであるが、米国内でもあいまいな文言で無効であるとの判決がある場合もあるそうだ。それを日本語に訳し、さらに訳せない部分を英語で表現しているので、受け取った側はさっぱり分からないだろう。

 製品に欠陥があったときのPL保険なのだから、欠陥が設計上のミスだという理由で支払えないとなるとかなりの部分は役に立たない。欠陥は普通は設計、製法、仕様、広告、取扱指示書の問題で生じるからだ。私に言われるとこんな条項は詐欺に近い。実際、この条項についてはISOは1986年版で削除しているらしい。

 この事件では企業は保険会社に6億円を請求している。損害額が大きいので保険の範囲を裁判で争わざる得ない。こんな詐欺的な条項だが裁判所は有効とした上で、原告の請求を棄却した(東京地裁H26.2.12判タ1420号371頁)。

 原告は控訴しているが、これは当然控訴だろう。 

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