名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

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№90 ビューティフルな人生

 うちの親父はクラウンが大好きだった。2年に一度というハイペースで意味もなく新型に買い換えていた。私に向かって弁護士の先生になったのだからクラウンぐらい乗らないとみっともないなどと言っていた。もちろん,私はクラウンは死んだって乗らない。あれはオヤジくさい。クラウンファンの方、ごめんなさい。

 親父の遺品を整理していたら,よく分からない高級腕時計だのサファイアカフスボタンだのいろいろ出てきた。母に聞いたら,たかが腕時計は200万円もするのだそうだ。わたしの腕時計はANAマイレージをこつこつためて獲得した。日常生活防水,デュアルタイム,ストップウォッチ,G-SHOCK,と多機能腕時計だぞ。

 いいじゃないか。一生懸命働いてそれを形あるものにしたいというのは分かる気がする。水鳥は水面では優雅であるが水面下では足を一生懸命動かしている,などという格言は誰が言ったのだろう。私の知る限り白鳥だって,カモだって一生懸命動かしている時は,一生懸命動かしていることは分かる。高級クラウンだろうが,200万円の腕時計だろうが,それがどんなに苦労して獲得してきたかはわかるものだ。あぶくのようにして得たものは,あぶくのようにしか見えない。

 私は快適な家に住み,おいしい食事をし,優しい妻や元気な子供らに囲まれたいと思う。人生における成功者となり,多くの尊敬も勝ち得たいとも思う。社会を動かし歴史に名を刻みたいとも思う。権力者にもなりたいと思う。いつも俺はビッグだといつも言い続けたいと思う。人を愛し、もっとも困っている人のために戦いたいと思う。世の中の平和を願い行動したいと思う。誰もが自由である社会をみんなとともに目指したいと思う。いばっているやつをやっつけたいとも思う。

 しかし,本当の私の希望はそんなところにはない。私には私の美学がある。私はいつも遠くを眺める人間でありたいと思っている。自分の存在を信じて疑わず,自分が何者であるかも考えず,自分は自分として生まれたように生きていきたいと思う。ボードレールは「異邦人」という詩を書いた。これは私が若い頃に好きだった詩だ。その詩は流れる雲に人生の美しさを見たものだった。