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№85 初恋

 初恋。この文字自体にも私達には特別な感情がこもる。最近では「初恋」などと,淡く狂おしい言葉は余り見ない気がする。改めてこの文字をワープロに出してみると,なんだか,うれしはずかしという感じだ。おじさんとはそんなものかもしれない。

 多くの人が初恋があるだろう。私などはかわいい子がそばいるとたいていは惚れてしまうので,何が初恋なのかよく分からない時がある。しかし,苦しいほどに好きになるという体験はそんなに多くはない。えっ,そんなにたくさんあるの?などと言わないでほしい。そんなにはない。

 大好きなのだがどうしても声がかけられない。目が合えば見つめ合うのだが,それ以上にはいかない。私達は近づくことすらタブーであった。彼女から来た手紙には「やまのあなたの・・・」と女の子らしい美しい文字で賢治の詩が書いてあった。14才であった私はどれほど狂喜したかしれない。私は遠くで彼女をながめ,どうしてこんなにかわいいのだろうだろうかと悲しい気持ちになっていた。

 こんな体験はすっかり忘れていた。