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№41 赤福事件の教訓 その3(社員と共に育つ)

 赤福の教訓は社員と理念を共有できなかったところにある。
 中日新聞によると2007年1月26日にも消費期限の改ざんなどの通報が三重県伊勢保健所にあったことということだ。農水省三重県に対する立入調査が9月19日であるからその8ヶ月以上前には通報があった。通報はおそらく内部からのものと思われるが,なぜ,内部の者がわざわざ保健所に通報したかが問題だ。普通は自分の会社がつぶれてしまったり,不名誉な評判がたつのはうれしくない。自分はあの有名な赤福餅の会社に勤めているのだと言いたいはずだ。
 中日新聞の記事はこの点についても丹念追っている。
「弱音を吐けば『いややったら辞めてけ』。家族を養う責任ある立場。良心の呵責(かしゃく)にさいなまれ、ノイローゼになりかけた。
 赤福では毎日の朝礼で唱和する言葉があるという。『お客さまに喜んでもらえる赤福餅を作ります』。美辞麗句とは裏腹に、消費者をだまし続けてきた赤福。『今もらっている給料も虚偽のように思える。“詐欺餅”を作っていたんだから心が痛んだ』。自分を責める言葉が続いた。」
「ある従業員は力を込めて話した。『もっと従業員を大事にする会社にしてほしい』」
 中小企業家同友会では労使関係について理念を共有し,経営者が使用者を共に成長していくパートナーとしている。企業は金儲けのためだけにあるのではなく,社員,社会にも貢献する「正義」が必要だとしている。中小企業家にとって,赤福の教訓はここにある。理念から見てまちがっている,理念から見て実践するべき課題があるという意識を社長は忘れ,当然社員との共有化など無かったというのが今回の事件を産んだのだろう。
 しかし,こうした共有化は実践の中で生まれるものであって,経験の交流無くして反転は難しい。さらに,食品業界の常識は世界の非常識ということもあって異種業種とのこうした交流も不可欠である。生の経営を勉強する難しさも赤福の教訓の一つである。