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№38 赤福事件の教訓 その1

 最近赤福餅事件に関心が向いている。赤福餅事件は中小企業における企業コンプライアンスのあり方について多くの問題を提起しているように思われる。企業は消費者に対し,ジャストインタイムの供給を追求する一方,生産コストや流通コストの無駄を省くことを心がける。本件事件は経過を見ると必ずしも悪意の経営という訳ではなく,そのせめぎ合いの中で「うかつにも」違法の領域に踏み込んでしまった事件ではないかと思われる。その代償は大きく,並の中小企業であれば倒産していたかもしれない。
 農林水産省プレスリリースによると,株式会社赤福は、(ア)自社工場が製造し製造年月日及び消費期限を表示した商品のうち、販売店に出荷しなかった商品を冷凍した上で、注文に応じて解凍、再包装し、この再包装した日を新たな製造年月日として、製造年月日と消費期限を表示するという不適正な表示を長期間日常的に行っていたこと (イ)原材料表示について、使用した原材料の重量順に「砂糖、小豆、もち米」と表示すべきところ、長期間にわたって「小豆、もち米、砂糖」と表示していたことを確認したというこである。これらはJAS法に違反するため,是正が同法に基づいて指示されている。
 食品の表示については食品衛生法厚生労働省)、JAS法(農林水産省)、不正競争防止法景品表示法公正取引委員会)が関係している。食品の品質,安全の問題は食品衛生法の視点から自治体が主に受け持っていた。新聞報道によると赤福の「まき直し」については,伊勢保健所を通し、赤福餅の解凍日を製造日にして良いかを問い合わせ、「問題ない」との回答を得ているというこだ。このように本件は複数の法律が適用されること,それにあわせて管轄も分かれていることなど,行政の複雑さが背景にある。
 法律の世界では法の不知は許さないという格言がある。法律は当人が知ろうが知るまいが適用されるという考えだ。中小企業にとって全てを知ることが難しい場合もある。知らねばならないというのであれば,それを難しくしている外部環境を変えなければならない。しかし,この事件は地元保健所に「消費期限をつけ替えて売っている」との情報があったことから始まった。おそらく社員の誰かが問題を感じ,保健所に訴えたのだろう。だとしたら会社はなんとなく「グレー」という社員の感性を吸収しきれなかったということになる。ここにコンプライアンスの本質がある。