名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1888 システムパッケージソフトウェアにかかわる紛争(その1)

№1888 システムパッケージソフトウェアにかかわる紛争(その1)

 最近ERP(Enterprise Resource Planning)にかかわる判決がいくつか出ている。ERP財務会計、販売管理、購買管理、取引先管理、銀行取引管理、在庫管理及び人材管理等の機能を提供する企業向け基幹業務システムを企業向けにパッケージソフトウェアとして売り出したものだ。

 ある会社ではERPを直接顧客に販売し、システム構築すくことはなく、サービスパートナーなどと呼ばれる提携会社(ベンダー)を通じて間接的に販売するという方式をとっている。そのため、システム構築に問題があっても直接その会社が責任を負うことはない。ただ、提携会社の質にもいろいろあるようで、中には問題がある会社があるかもしれない。

 ERPパッケージソフトウェアとは言っても、企業の個性に応じて標準機能の応用範囲が異なる上、追加開発(カスタマイズとかアドオンとか呼ばれている)が可能でアルことからかなり複雑な内容を持つ。依頼者の要望も多岐にわたるため依頼者からの聞き取りや、依頼者に対する説明について高い能力が要求される。

 導入までのプロセスも様々だ。東京高裁H26.11.26判決の事例(判時2310号67頁)の事例では次のようになっている。

まず、導入を約束する基本契約が締結される。
 ① 買主がベンダーに提案依頼書(Request For Proposal/RFP)を提出
 ② キックオフミーティングにより当事者間で基本方針が確認される。
 ③ 顧客の要求項目が整理され、実現するかどうかが合意される。
   Fit & Gapと言われる作業で、標準機能、アドオンなど実施する場合はFit、実施しない場合はGapと表現される。この作業は契約の根幹をなす作業で、顧客はこの作業にかなりの労力をつかう。

要求項目が整理されると作業に入るのだが、作業毎に個別の契約が5段階に分かれている。
 ① プロジェクト準備フェーズ
 ② ビジネス設計フェーズ
 ③ 実現化フェーズ
 ④ 本稼働準備フェーズ
 ⑤ 本稼働・サポートフェーズ

 基本契約とは別に5つの個別契約に分かれるのだが、考え方としては5つの個別契約は値段もあらかじめ決められていないことが多く、段階毎に合意する。そのため、それぞれ独立した請負契約であるとするのが一般的だ。 
   
 この種の紛争はできあがりと顧客の期待とのギャップから生じる。紛争の場面ではFit & Gapの解釈の違いから生じることがほとんだと考えて良い。

 パッケージソフトウェアとは言っても数千万円から1億円以上、時には数億かかる買い物になる。高額な分だけ導入企業としてはソフトウェアに対する期待は高い。また、ひとたび契約に入ってしまうと意味が分からない中、ベンダーと交渉しなければならないので非常に骨が折れる。特に段階毎にお金を払うのでつぎ込んだ労力、費用を考えると簡単に契約解消できないというストレスもある。

 前記の東京地裁の事例では、一審は「錯誤」と言って、顧客の意図と異なる内容であったことに事業者の責任を認めて契約を無効とした。ところが、高裁はこれを覆して請負代金の支払いを命じている。


名古屋E&J法律事務所へのお問い合わせはこちら
                 → http://www.green-justice.com/business/index.html