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№1889 システムパッケージソフトウェアにかかわる紛争(その2)

№1889 システムパッケージソフトウェアにかかわる紛争(その2)

  その1からの続き →  http://blogs.yahoo.co.jp/lawyerkago/40211300.html

 ERPパッケージソフトウェア導入にまつわる判決が増えているように思う。
 この種の紛争はできあがりと顧客の期待とのギャップから生じる。紛争の場面ではFit & Gapの解釈の違いから生じることがほとんだと考えて良い。この問題は法的にはどのように考えられることになるだろうか。

 導入契約の特徴は基本契約と個別契約に分けられている点だ。
 名前はいろいろだが、東京高裁の事例では5つの段階に分けられている。
 ① プロジェクト準備フェーズ
 ② ビジネス設計フェーズ
 ③ 実現化フェーズ
 ④ 本稼働準備フェーズ
 ⑤ 本稼働・サポートフェーズ

 そして、その都度、仕事の内容、金額、納期も決められていく。そのため、法律上はそれぞれ独立した請負契約ということになる。独立しているという意味は、それぞれのフェーズの作業ごとにいったん契約は終了し、次の契約には影響を及ぼさないのが原則ということになる。

 しかし、そうは言っても、顧客からすれば最終的な仕上がり、つまり所定の目的に従った操作ができることが目的となっているのであるから、各フェーズごとにそこで終わりというのは割り切れるはずもない。

 個別契約とは言っても各契約は一つの目的で結びつけられている。一つの目的であることを表すために基本契約というのもある。だから、全く無関係という訳にはいかない。

 たとえば、③実現化フェーズで問題が露呈した場合はどうだろうか。それまでの①、②は支払い済みで契約は終了したとしても顧客としては結局システムはないのだからお金を返せと言いたいだろう。かかった労力が無駄になる点での損害賠償請求もしたいだろう。

 ではどう考えたらいいのだろうか。
 繰り返しになるが、各フェーズ毎の契約なので一つのフェーズの債務不履行によって、それ以前の契約も解除できるとすることはかなり難しい。EPRに限らずソフトウェア契約では過去のフェーズ解除は否定されている。

 東京地裁H26.3.28判決では顧客が当初示した機能と実際の仕上がりにギャップがあった結果、契約は「錯誤」つまり契約上表示された顧客の期待と実際の内容が異なる場合に該当するとした。法律上はこれを無効にしている。その結果、顧客は代金支払い義務はないとした。
 しかし、高裁はこれを覆し、錯誤はないとし逆にベンダー側の全面勝訴となった。

 もう一つの考え方は付随義務に違反するというものだ。
 各フェーズの個別契約は有効であっても、ベンダーは専門家としてプロジェクトを適切にマネジメントする義務があるという考え方だ。東京地裁H.28. 4.28判決はこの付随義務違反を理由に開発側に対する5億円の賠償請求を認めている。

 一般的に言うと、ソフトウェア開発ではベンダー側がかなり有利な状況にある。それは専門性が高いために契約の目的が何であるかという点でベンダー側の理屈で決まってしまうところがあるからだ。ユーザー側が対抗するためにはやはり専門家及びIT契約に詳しい弁護士に相談を進めつつ契約を締結する必要があるように思う。

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