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№1620 犯罪者を弁護するということ

№1620 犯罪者を弁護するということ

 私たち弁護士は犯罪者を弁護する。時に殺人犯などの凶悪犯罪者も弁護する。こういった問題については社会からいろいろ非難があって,世間の耳目を集めた事件の担当弁護士事務所のところにはいやがらせの電話が殺到することがある。

 私は最近は刑事弁護をめったにしないが,若い頃は随分たくさん扱っていた。弁護士にとって刑事弁護は行わなければならない任務のように考えている。それは弁護士の倫理を考える上でとても大切なことだ。

 弁護士の倫理を私たちは法曹倫理などという言葉でよぶ。この倫理は私たちが日常生活で使う「倫理」とは違う。お父さんやお母さんを大切にしようとか,お年寄りに席を譲ろうといった一般的な倫理は法曹倫理では扱わない。

 法曹倫理というのは職業的専門家としての倫理だ。私たちが弁護士であるからにこうあらねばならないというプロフェッションとしての倫理が問題になっている。殺人は許されないだろう。強姦事件に対する怒りは弁護士も持ち合わせている。しかし,職業的倫理からは彼らを弁護しなければならない。

 日本国憲法三権分立を定めて司法,裁判制度に特別な役割を与えている。それは国家権力の監視と,個人の権利の擁護だ。刑事手続きは国家権力の最たるもので,そこでの監視は司法の本来的で絶対に譲れない役割となっている。司法の一翼を担っている弁護士はだから刑事事件に取り組まなければならない。

 私たち弁護士は司法という憲法上の重要な役割を担う存在であるが,司法の中には裁判官もいれば検事も存在する。その中で私たち弁護士は「弁護」という任務を全うすることで司法制度を維持している役目を担っている。

 この弁護というのは何なのだろうか。
 世の中の多数派は世の中の政治的仕組みの中で護られる。しかし,少数派はどうだろうか。まして,個人はどうだろうか。法律上本来護られるべきことが多数派,権力者によって踏みにじられることがあるというのは歴史が証明している。私たち弁護士の役目はこうした少数派や個人の法的な権利を擁護することでその職責を果たすことになる。

 検事は国家の秩序という公益を代弁する。弁護士は同じ公益という言葉であっても違う。

 もちろん,弁護士も公益を擁護する義務がある。不正を行ってまで犯罪者を擁護することはできない。しかし,私たちの公益の擁護とは個人の権利が守り通されることで公益に貢献するという意味になる。「世界中の人々があなたを憎んだとしても,私はあなたの権利を擁護する。」というのが職業としての弁護士の倫理だ。それは司法の独立を護る弁護士の誇り高い倫理だと考えている。

 だから,世間の逆風に抗してでも凶悪犯を弁護しようという弁護士に対しては私たちは大きな敬意をもって臨んでいる。