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№1619 民法改正

№1619 民法改正

 120年ぶりの民法改正作業が進んでいる。影響が大きいということであちこちでセミナーが盛んだ。しかし,中小企業にとってはそれほど影響が大きいわけではない。大企業,特に金融関係は影響が大きそうだ。

 そもそも民法って何だろう。
 民法は私人間の法律関係を規律する基本的な法典だ。たとえば,人とは何かとか,物とは何か,法律行為とは何かといった基本中の基本のことが定めている。

 物を買うといった場合,売りますという意思の表明があって,買いましょうという意思の表明が有り,価格,履行期が決まって売買契約は成立する。こういう基本的なことが民法には定めている。

 当たり前のことが書いてあるから言って馬鹿にしてはいけない。世の中の複雑な法律関係は基本的には民法の条文や原理に基づいて作り上げている。私人間のことを任せておいたのでは具合が悪い場合には特別法によって,それが修正されていく。

 労働法はその典型だ。就労は労働契約という契約だ。民法に定めている。しかし,当事者に任せておいたのでは労働者が不当な処遇を受ける知れないので労働関係法によって民法が修正されている。それにしても,まず民法があって次に労働法ということになる。

 このような法律の基本中の基本である民法であるが,親相続を除いては120年間あまり変わっていない。これは基本的すぎてこれを変えるとなる影響が大きすぎるのと,労量が大変であること,判例の解釈によって対応できてきたことなどが理由だろう。

 ともかく,平成21年10月,法務大臣から民法改正の審問があった。この審問の内容が今回の改正の基本的な内容となっている。

「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい」

 そして,今年2月改正「要綱」が決定された。法務省は速やかに国会への法案提出を目指しているらしい。
                                    
  この要綱の内容は,主には①従来の判例を条文化したもの,②時代に即して新しく制度が設けられるものに分けられる。今回の改正はどちらかというと①が中心で,120年にわたって積み重ねられてきた判例学説の流れを集大成するようなところがある。従って,大きく変化するというよりはこれまでの変化を整理しようというふうに考えた方がよういように思う。そのため,長期的に見れば影響は大きいが,当面は中小企業にとっては大きな変化はないように思う。

 以下は,②の新しく制度を作り上げるような感じの改正項目だ。

 1) 消滅時効
  【現行】
    民事10年,商事5年,その他 
  【要綱】
    債権行使可能なときから5年,行使できるときから10年。
    なお,生命身体にかかわる損害については,権利行使可能なときから20年。
      ※ 時効の完成猶予にかかわる条文も整備される。
 2) 法定利率
  【現行】
    民事5% 商事6%
  【要綱】
    政令で3年ごとに見直していく。
 3) 連帯保証の資格
  【現行】
    書面(電磁気録を含む)によって初めて成立
  【要綱】
   ① 個人保証の制限
     事業のための借入保証については「一ヶ月以内に作成された公正証書」が必要
   ② 個人保証制限の例外
    (主債務者が法人である場合)
     ・借主の理事,取締役,執行役又はこれらに準じる者
     ・借主の総株主の議決権の過半数を有する者
    (主債務者が個人である場合)
     ・借主と共同して事業を行う場合
     ・借主の事業に現に従事している配偶者 
     
 4) 主債務者の情報提供義務
  【現行】
    特にない。
  【要綱】
   ① 情報提供義務の内容
     ・財産又は収支の状況
     ・その借入等以外に負担している負債の有無,金額及び支払い状況
     ・その借入等の担保として他に提供したものがあるとき,その旨,その内容
   ② 情報提供義務を怠った場合
     貸主が情報提供義務を怠っていると知り得る場合は保証債務は無効となる。
 
 5) 債権者の保証人に対する情報提供義務
   【現行】
     特にない。
   【要綱】
    ① 借主の履行状況
     ・元本,利息,損害賠償についての不履行の有無
     ・これらの残額
     ・残額のうち弁済期が到来している額
       ② 期限の利益喪失の報告

 6) 債権譲渡制限
  【現行】
    制限可能
  【要綱】
    原則譲渡可能である。

 7) 定型約款
   定型約款というのは「約款」という方法で契約内容を別途決めてしまう方法である。従来から業者に有利とされ,契約内容を知らないまま拘束されるという問題が指摘されていた。
  【現行】
    特にない。
  【要綱】
    ① 定義を明らかにする。 
      契約の内容とすること目的として特定の者により準備された条項
    ② みなし合意
      ・定款の内容を契約内容とする合意
      ・定款契約の内容とする旨の表示を行う。
    ③ 定款の変更
      ・利益に合致する場合
      ・契約をした目的に反せず,かつ合理的なもの