№1615 本地(ほんち)たづねたるこそ
むかし,虫めづる姫君がいたそうな。イモムシが大好きな姫君は「虫のおそろしげなるをとり集めて」これが蝶になる様をみようとして箱に入れて育てていた。
「人々の花蝶やとめづるこそ,はかなくあやしけれ。人はまことあり,本地たづねたるこそ,心ばへをかしけれ」
花,蝶と大切にすることのほうが浅はかでわけがわからない。物事の根本を探り当てようという気持ちがおもしろい。などと言って,表向きの現象にとらわれているのは,つまらないと言っていた。
この姫君,当時の女性のたしなみなど無関心で,眉も抜かないで黒々としており,お歯黒も行わなかったため「いと白らかに笑みつつ」という感じだった。人々は彼女を変人扱いしたが,彼女は動じなかった。
姫君は侍従の子供達にいろいろな虫を集めさせては観察し,さらには侍従の子供ひとりひとりに虫の名前をつけて呼んでいた。変人というのはこうでなくていはいけない。常識にとらわれすぎていると何も生まれない。
常識にとらわれず,「本地たづねたるこそ,心ばえをかし」,そして,新しいものが生まれてくる。