№14954 高齢者の土地売買と契約の有効性
高齢者,それも80歳を超えるような高齢者の土地売買は有効なのだろうか。かなりボケが始まっても大人であることには変わりない。でも,親族としては納得いかないことも多いのではないか。
私の経験する例では,だんだん年をとっててきて判断能力が落ち,さらには親子などで対立を始める。特にその人が身近であればあるほど攻撃的になる。わがままが高じて,要求に応じてくれない身近な身内に当たり散らすのだ。
これが創業者など社長が高齢者になった場合は特にたちが悪い。息子である新社長をクビにしたり,いつのまにか会社を売ろうとしたり,長く疎遠になっている嫁いだ娘のところに転がり込んで,全財産を譲るというような遺言を作ったり,とんでもないことが起こる。
そこで,高齢者の土地売買が意思能力を欠いて無効となった最近の事例を紹介したい。
この事例はアパートを所有していた老女(売買契約当時85歳)が娘夫婦が居住しているにもかかわらず,このアパートを不動産業者に5600万円で売却してしまった事例だ。原告の主張では時価は1億円はするという。
老女から不動産を手に入れた不動産業者は娘夫婦に対して建物から退去するよう求めて裁判を提起した。
これだけ聞くだけでもなんだか怪しい事例だ。わざわざ娘夫婦を住まわせているアパートを売却するのはきわめて不自然だ。しかも,85歳になって5600万円もの大金は使い道がない。老女はすでにアルツハイマー型認知症と診断され病院にも通院していた。
法律上は「意思能力」と言って判断能力の無い人の行為は無効とされる。娘夫婦側は売買契約時に老女は意思能力を欠いているから無効であると反論している。
しかし,彼女は一方で一人で生活していた。売買契約当時は夫も生存しており,売買契約には夫や次女も同席していた。売買契約締結後,売買の動機について手紙を残していた。さらには,公証人の前で陳述録取公正証書まで作成され,売買が彼女によって述べられている。
普通,これだけの条件がそろっていると意思能力がそろっているなという感じを受ける。しかし,判決は売買契約を無効とした。それは売買契約の過程が不自然で,この老女が売買する必然性がないと判断したのだ。「中程度の認知症に罹患し,記憶や見当識等の障害があった上,周囲に対して取り繕ったり迎合的になったり場面や相手によって自らの意見を変える顕著な傾向があり」とした(東京地裁H26.2.25判時2227号54頁)。
この「迎合的」というところが目新しい判断だ。一見,まともに見えても人に言われれば何でも「はい」と言ってしまうような意識の後退,判断の低下というのはある。