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№1233 「世界の経営学者はいま何を考えているのか」入山章栄著

№1233 「世界の経営学者はいま何を考えているのか」入山章栄著
 おもしろい本だが読み終えるのに手間取った。毎日少しずつ、夜寝る前に読んでいくというのが私の習慣だ。

 表題の著書はとてもおもしろかった。著者は本書で現在の経営学で繰り広げられている様々な論点を紹介している。それだけでも興味深いのだが、それぞれの経営学の論点が歴史的にどのように発展していったかも紹介しているため、議論の成り立ちもわかりやすくなっている。

 ところで、著書の冒頭こんな言い方で始まっている。
 「ドラッカーの言葉は、名言であっても科学ではない。」

 ドラッカーの信奉者の私としては聞き捨てならない台詞だ。しかし、本書を読んでいくとその意味が徐々に理解できてくる。

 現在の企業経営の中で生じている様々な事象を分析してある種の法則を発見し、それを応用して実務が展開していくことが経営学の望みだ。インターネットの発達によってソーシャルネットワークのあり方が変化する場合、その変化がもたらす新しい事業の展開が分析される。どこで、イノベーション、クリエイティビティが生まれているかを明らかにする。その教訓は何か。それが経営学の役割だ。

 ドラッカーは独特の直感力を持って経営を分析するが、社会全体に生じている事象を分析することはまれのような気がする。新聞記者だった彼は、むしろ、企業の個別の取材によってその勝れた点をとりあげ、シンプルな「名言」としてまとめ上げていく。ドラッカーの手法はケーススタディであることが多く、社会に共通して起こっている事象を科学的に分析するという訳ではない。

 経済の動き、経営社会の潮流、こうした世の中全体の動きや発想をとらえていく上では経営学は有益だ。例えば、オープンイノベーションという言葉をつかって、イノベーションが語られる場合、私は世界全体を見る目が一つ豊になったような気がする。巨大企業からスピンアウトしして起業し、企業同士の連携が進んだり、連携そのものがイノベーションであったり、世界の動きの一つが把握できる。このようにして経営学は世界を把握する武器として役立つ。

 一方、特定の企業を調査し、掘り下げ、展開されるドラッカーの議論は、勝れた経営者が勝れた実践の中で得られた思想を心の中に再現するという点で勝れている。

 例えば、ドラッカーカーネギーの次の墓標を紹介する時、私の気持ちはぐっと引き締まる。
 「おのれより優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」
 ( Here lies a man who kenw haw to bring into his service men better than he was himself. )