№990 高次脳機能障害
高次脳機能障害というのをご存じだろうか。
こうした脳の障害の一つに高次脳機能障害というのがある。
私の事務所では交通事故の事例も多く扱うので、事故で脳に障害を受けた事例にも遭遇する。
事故直後,頭部に大きな衝撃があり本人は意識を失い救急車で病院に運ばれる。意識は数時間から1日,時には何日も回復しない。
やっと意識が回復したかと思うと,事故のことは全く覚えておらず,変なことを言う。奥さんが訪ねてきても誰だか分からない。その後,徐々に意識も判断力のしっかりしはじめ,普通の会話を徐々にできるようになる。でも,なんか変だ。言葉がすぐに出てこない。あるいはよくしゃべってとりとめがない。記憶がうまくできない。さっきのことをすぐに忘れてしまう。簡単な計算ができない。
性格が変わってしまった。子供っぽくなり,甘えてくる。あんなにきつい性格だったのに丸くなり,時には従順になり,あるいはいつもにこにこしている。不安がある。誰かにいてほしい。自分がよく分からない。自分が変わってしまったことが分かる。でも,どうしようもなく,生きる方向を見失い,うつ状態になってしまう。
いろいろなリハビリが行われるが,やがては症状が固定し,障害を残したまま生活を続けることになる。人格がすっかり変わってしまった被害者に家族が向かい合うのは大変なことだ。
私は高次脳機能障害の事例をいくつも扱ってきた。その多くは夫が,妻が,あるいは両親が献身的に被害者に尽くしており,愛の深さを感じる。本当の愛というのはけっして派手なサプライズにあるわではない。本当の愛はその人の人生を引き受ける強い覚悟の中にある。
弁護士という職業はこのような立ち入った世界に入る。私たちは被害者、その家族の人間的な営みに深い感動を覚え、学ばせていただいている。