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№766 信義誠実の原則

№766 信義誠実の原則
 私たちが法律の勉強を始めた頃、最初の方に習うのが「信義誠実の原則(信義則)」という言葉だ。

 民法1条2項はこんな風になっている。
「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」

 普通の人はなんだか当たり前で、どこに法律上の意味があるのだろうと思うかも知れない。しかし、この条文は法律家にとって究極の条文で、法律や契約では解決できない問題の最後の手段として利用する。この条文が活用できる弁護士は優秀な弁護士と言える。

 例えば、前回紹介した事例(№762参照)。
 ガソリンスタンドを長く契約をしてきて、急に打ち切られた事例だ。ガソリンスタンドはPOSシステムを利用できないと通告された。POSシステムというのは商品処理、経理処理、経理計算、税務計算などを中央のホストコンピュータですべてやってくれるという便利なシステムで、小売店はこのシステムに深く依存しているため、急に利用できないとかなり打撃を受ける。

 この事件は「信義則」が活用されて、交渉(=「寝技」)で解決された。

 契約を打ち切ることができる事情が確かに存在する。しかし、「それはさておき、ひどいじゃないか。」ということで、1ヶ月ほどの継続を要求する。その際に活用するのが「信義則」だ。

 法の世界では当然法律や契約で解決するのが大原則だ。これから逸脱するにはそれなりの理由が必要になる。

 例えば、取引に入ったいきさつ、取引上当事者がその契約にどのような準備をしてきたか、相手方は依存させることによってどんな利益を得てきたか、小売店側が依存してきたことによりどれほど従属性を負ってしまったか、小売店を失う不利益は何か、相手方が失う不利益はたいしたことないか。

 など、などだ。単に「ひどいじゃないか」というだけでは「信義則」は助けてくれない。詳細な事情を整理し、こちらがひどい不利益をこうむることや、不公平であることがアピールされなければならない。そこに専門性が発揮される。

 今回の事件は「寝技」で解決されたのだが、それは、法的にはかなりきびしく「信義則」も難しい事例だった。しかし、こちらが、とことん戦う姿勢を示すことで、「それは裁判で勝ったとしてもコストがかかり過ぎる」と思わせることで、相手の妥協を引き出していくことが可能となる。