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№668 中国、履行遅滞判例

№668 中国、履行遅滞判例
 中国弁護士と日本ブランドについて話していた。彼によると商品の質の高さに加えて「信用」が日本ブランドだという。確かに日本の業界は「納期」がとても大切にされるし、「支払い」も大切にされる。
 
 中国企業とつきあう上で支払いをどのように確保するかは多くの経営者が頭を悩ませている。中国企業経理担当者は支払いを先送りすることが「能力」と考えているところがある。先送りすることで企業の信用を失って、結局「損」という発想に中々ならないらしい。私の偏見かもしれないが、中国の経済人は、信用より、眼の前の利益を重視する傾向にある。
 
 中国裁判例を調べてみるとこうしたタイプの裁判例もある。
 これは「鉄鋼供給販売契約」の事例だ。1ロット目の鋼材を受領して60日以内に支払いがない場合、1日つき代金の3%の違約金を支払う契約が締結されていた。1日3%というのはとんでもない賠償金で、1週間21%、1ヶ月で90%となる。おそらく中国でもここまで法外な違約金は珍しいかも知れない。
 
 未払い代金が70万元だったのだが、違約金だけで約126万元に達した。これは推測だが、買い付けた企業の力が余程小さく、信用がなかったこと、何らかの力関係の弱さからこうした法外な違約金契約を締結したかもしれない。日本であれば、一般的な遅延損害金の法定の率と比較したり、優越的な地位の濫用、暴利行為といった法理を利用して戦うことになるだろう。
 
 中国契約法によると違約金の合意そのものは有効である(契約法114条1項)。しかし、いきすぎた違約金については、高額であっても、低額であっても裁判所が修正できるという条文がある(法114条2項)。
 この事件は、途中で「補充契約書」ができたり紆余曲折を経ているが、最終的には違約金部分が未払いとなったため、60万元の支払いを求めて訴えが提起された。人民法院1審は60万元の支払いを命じた。しかし、2審は60万元は「法外」であるとし、上記条文を利用して30万元に減額した。
 
 評釈によると、なぜ30万元になったかについては必ず明らかではないのだそうだ(別冊NBL №132、19頁)。この点が、判決ともなると徹底的に争って判断する日本とは違うのかも知れない。日本では当事者がいろいろ主張するので、それに応えるために判決文もある程度、詳細になる。