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№452 直接雇用の原則

№452 直接雇用の原則
 労働者派遣法が制定されたのは1985年のことだ。成立して20年ほどたった。当初はコンピューター技師など特別な分野に限定されていた。しかし、1999年には特定の禁止業務を除いて解禁されている。特に製造業など単純労働に解放されたことから派遣の意味が一変したように思う。
 
 派遣労働では人が「物」のように扱われる。これは単に社会、経済上の意味ではない。法律的にもそうなのだ。その原理は「雇用」と「使用」とが分離されることからくる宿命的なものだ。
 
 派遣労働は労働者、派遣元、派遣先の3面から成り立っている。労働者は派遣元、派遣会社に「雇用」される。しかし、働く場所は派遣先であり、派遣先に「使用」される。つまり、派遣労働は「雇用」と「使用」とが完全に分離しているところに特徴がある。私たちはこれを間接雇用と呼んでいる。
 
 労働契約は今でも、直接雇用が原則だ。
 日本国憲法が制定されて、労働者の基本的権利が保障された。生存する権利、働く権利など多くの労働法制が憲法下で定められていった。「労働」という商品は、経済的に取引される面と、人の生活、人生そのものという人格的な面とが切り離せないという特徴を持つ。
 
 この人格的な面を保障しようと言うとき、労働力を利用する者が労働者に責任を果たすという仕組みこそが最良であると考えられている。実際、使用する者が、労働者と関係を簡単に断ち切れない関係に立つことで、労働者の人生にも責任を持たなければならない関係に立つことになる。
 
 中小企業の場合、単純労働を利用するとは言っても大きな企業のように大量に雇い入れることはない。むしろ、製造業であっても熟練を要する分野が多く、個性が重視される。社長と従業員との距離はとても近く、強い人間関係でつながれている。また、派遣のコストはけっこう高い。小さな企業では雇用調整と言っても限界がある。
 
 このご時世だから、中小企業の社長が派遣を利用するなとは言わない。しかし、大企業のように人材を単純にコストや「物」と捉えて、企業の「生産性」といった数字を振り回すのは中小企業の実態に合わないように思う。理想を言えば、社長と社員が共通の意識をもって「創造」する、働く喜びや社会に貢献した喜びを共有する、ここが大切だ。派遣ではそれは難しい気がする。