№279 先生,勝てますか?
日常の法律相談で私たちは「先生,勝てますか?」という質問にしばしば出くわす。
訴訟などは企業にとってそんなに多くあるわけではないから気になるのは当然だ。まして,社運がかかるような訴訟になれば,勝訴の見込みを聞きたくなるのは人情だろう。
もちろん,困った質問だ。訴訟は戦いの場だから,相手も同じように「先生,勝てますか」と聞かれていることだろう。双方が「勝てます。」などということはあり得ない。
法律上の紛争の多くはかなりの部分は最初から見通すことができる。そのため多くは原告が勝つ。見込みのない事件は訴訟にしないからだ。
弁護士は弁が立つと一般の人は思っている。論争することが商売だからそうかもしれない。しかし,一定の事実があって初めて私達は論争に勝つことができる。お金を払ったのに相手が商品をくれない。お金が払った事実がきちっと立証できなければ論争に勝つことができない。相手から,「うちはお金をもらっていない」と反論された時,事実を立証できなければ何を言っても勝つことはできない。
もちろん,事実はこんな単純なものではない。私達の間には「証拠の優越」という言葉があって,いくつかの証拠の積み重ねがあって初めて真実と認めるべきだという考え方がある。つまり,領収書,契約書などの書類,預金の出入り,証人の記憶の内容などいくつか証拠を積み重ねて,相手の証拠よりも確かであれば真実と認めるという考え方だ。
弁護士の能力はこうした証拠の積み重ねをどれだけはかれるかというところでも発揮される。