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№2462 カスタマーズハラスメント(カスハラ)

 ホテルやコンビニ、鉄道などでお客がどなりちらして従業員をいじめている現場をみることがある。見ていて痛々しくて何かしてあげたいと思うがなかなか声がかけられないという経験はないだろうか。こうした、「お客」という一種の優越的な立場を背景に限度を超えた迷惑行為のことをカスタマーハラスメント(カスハラ)と呼んでいる。仕事とは言え、理不尽な行為に対しては精神的にも肉体的にもダメージを受けるので、こうしたカスハラから職員を守るのは経営者の安全配慮上の義務だ。

    厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

 

 

1.    カスタマーハラスメントの背景

 令和元年6月に、労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となった。
 この改正を踏まえ、令和2年1月に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定され、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められた。

 

 

2.    パワーハラスメント

 カスタマーハラスメントはパワハラ、つまり「優越的な地位に基づいて業務の適正な範囲を超えて、身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」の一つと考えられている。

 

 パワハラは上司から部下への優越的問題行動が一般的だが、部下から上司へもある。お前は「上司としての適格がない」などと言った理不尽な言動もパワハラになりうる。集団で仲間外れにするのもパワハラになりうる。しばしばセクハラが混じったりする。

 

3. 安全配慮義務

 パワハラは職員の身体的、精神的な被害をもたらすものであるため、経営者の職員に対する職場の安全を確保する契約上義務として考えられる。これを法制化したのがパワハラ防止法(労働施策総合推進法)だ(32条の2、1項)。


「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

 

 

4.    カスタマーハラスメント

 カスタマーハラスメントは顧客等のクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものとされている。次のように整理されている。


(要求内容の妥当性にかかわらす不相当とされる可能性が高いもの)
●    身体的な攻撃(暴行、傷害)
●    精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
●    威圧的な言動
●    土下座の要求
●    継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
●    拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
●    差別的な言動
●    性的な言動
●    従業員個人への攻撃、要求

(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)
●    商品交換の要求
●    金銭補償の要求
●    謝罪の要求(土下座を除く)

 

 

5. カスハラに遭遇した社員の防護

 

(1)お客との関係を整理する

 業種によって顧客との関係は多様であるため、職場にあわせた対応策が必要であるが、第一に顧客と会社との関係はけっして支配従属関係にあるものではないことを認識しておく必要がある。対等な当事者としてよい仕事をしていく関係であるという認識だ。これを時々勘違いした従業員が、独りよがりの理屈でむやみに威張ることがあるから、この関係は社内で検討するときには注意を要する。

 

(2)一人にさせない

 カスハラに対しては、社員を孤立させないことが大切だ。仲間が助けて、お客が冷静に対応できる関係を築き上げる必要がある。上司があれば、上司も対応する必要があるだろう。仲間が困っているのに、助けることができな職場ではいけない。

 

(3)事実を確認する

 お客さんに不満がある場合、こちらの落ち度もある。怒って当然という事例もあるだろう。まずは、お客の言い分を聞き、冷静に事実を確認していくことが重要だ。複数で対応することはこの点でも意味がある。

 

(4)理由があっても理不尽な要求には応じられない

 たとえ理由があっても、「土下座しろ」とか、「人間のくず」だとか理不尽な言動は許されない。このような言動はできたらその場で指摘し、理由があっても、そのような言動を慎むよう注意する姿勢が大切だ。火に油を注がないようあくまで丁寧な言葉遣いが必要だろう。

 

(5)カスハラには断固たる対応が必要

 理不尽な言動を注意しても収まらない場合には断固たる対応が必要だ。「それならお買いいただくともけっこうです」「当店からご退去ください」など、関係が切れてもよいという覚悟が必要だ。この点は経営者がきちんと社員に権限を与えておく必要がある。

 

(6)警察、法的手段も検討する

 限度を超えた言動が、さらに続くようであれば、警察の助けを借りる必要がある。限度を超えたカスハラは侮辱罪、名誉棄損、暴行罪、時には傷害罪となる。さらに店舗から出ていかなければ不退去罪という犯罪となる。警察がかけつけてくれた時には、必ず出て行ってもらいたい、やめてもらいたいという姿勢を貫かないと警察も梯子を外された格好になってしまう。

 

(7)言動を記録する

 カスハラに遭遇した場合には、録音など証拠を残しておくことも有益である。録音が無ければ、落ち着いた段階で速やかに記録したメモを作っておくとよい。日時、場所、現場にいた関係者、カスハラと思われる言動などである。こうした記憶が新しい段階でのメモは証拠価値が高い。