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№1556 共同開発契約の注意点

№1556 共同開発契約の注意点

 一定の能力を持つ機械を開発して欲しい,特別なラインを開発して欲しいという依頼を引き受ける場合,その開発にかかる費用をどのように負担するかは難しい問題だ。

 求められた性能,作業内容をなかなか実現できず,費用ばかりがかかることある。結局できなかった場合にはその開発費用はどのように処理されるべきろうか。しかし,開発のリスクを契約当事者がどのように分配するかはあらかじめ決めておく必要がある。

 東京地裁H26.1.22判決(判時2235号61頁)の事件では「マグネシゥム用射出形成機及び半凝固アルミニュウムダイカスト成形機とその成形法」という装置の開発を引き受けたという事件だ。

 共同開発契約には次の条項があった。
 ① 本装置の開発は,被告から提示される仕様に基づき,原告が制作するものとする。
 ② 代金は着手時,運転可能段階,船積み時にそれぞれ3分の1ずつを支払う。
 ③ 開発不能の場合には被告らが投入した費用は返還しない。

 この事件では対象機械の開発がうまくいかないことから,結局中止となってしまった。一方的な中止に発注者つまり被告は,受注者つまり原告の債務不履行,一方的な中止は開発業務の放棄だと主張した。

 一方,原告側はやるべきことはやったのだから,中止になったとしても必要な代金,こすとは支払って欲しいと申し立てのだ。この機械については原告は3300万円を請求している。

 判決は開発中止に到ったのは本件開発の難しさからいってやむ得ないとした。そのため,開発任務を履行できない原告には落ち度はないとしたのだ。従って,被告は計画中止に伴う損害賠償請求はできないとした。

 しかし,一方で危険負担の債務者主義(民法536条)を示して,開発不能になった時点で契約は終了し,開発側はそれ以上代金を請求できないとした。危険負担というのは民法の中でも非常に難しい議論で,要するに開発リスクを誰が負担するか,つまり開発中止になった場合に代金を請求できるかという問題になる。請求できれば開発中止でも原告には損はに,リスク被告にあるということになる。できなければ,原告側に損が行くことになる。つまり,リスクは原告にあることになる。

 ともかく,開発リスクは原告にあるため,原告は既にもらっている以上のお金を請求できない,ついかの代金は請求できないということになった。

 この事件の教訓は,開発途上で難しい問題が出現したため,「仕様」の変更が必要になった。その時に,きちんと合意事項が文章化されていなかった。また,開発費がかさんでくることを想定した条文が十分でなかったということになる。要するに開発リスクの負担にかかわる条項が不十分だったということになる。