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№1185 小面(こおもて)

№1185 小面
 かの夏目漱石先生は「草枕」の中で、能についてこう言っている。

「我らが能から享けるありがた味は下界の人情をよくそのままに写す手際から出てくるのではない。そのままの上へ芸術という着物を何枚も着せて、世の中にあるまじき悠長な振舞いをするからである。」

 能は常に単純化をめざし、人の振る舞いに奥底にある美の深層にせまると言われたりする。「幽玄」とか、「花」とか、「物狂」とか、この世のものとは思われない何ものかを追究する姿勢はなかなかよいのではないかと思うことがある。

 能が仮面劇であることは奇跡のように思う。激しい人間の心の動きを面が遮断し、さらにその奥にある何ものか、人では接することがかなわない「美」を表してるなどとどっかの評論そのままに思っている。小面の面など見ると、とても美人には思えないが、私にはとてもありがたく思える。

 そうは言っても、私の場合、御能拝見の折りには寝てしまったりしてどうも具合が悪い。そんな時は悠長な能を最後まで観たという辛抱強さを褒めてもらいたいぐらいに思って言い訳している。

 漱石先生は坊ちゃんの中でこうも言っている。
「爺じいさんは呑気のんきな声を出して謡うたいをうたってる。謡というものは読んでわかる所を、やにむずかしい節をつけて、わざと分らなくする術だろう。」