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№1203 人を生かす法律相談

№1203 人を生かす法律相談
 私の事務所は常に「人を生かす」ことを心がけている。
 現在、相談中の事件を紹介したい。もちろん、守秘義務があるから内容は変えている。

 これはある機械関係の業者だ。最近の不況の影響で経営上非常な危機に陥っている。しかし、決算書報告書などから判断するとまだまだいけそうだ。長期債務はかなりたまっていて、今や年間売上額に近づいている。

 聞いてみると客筋は良い。比較的大きな大きな会社がいくつかある。
「お客さんはどんなところなんですか。」
「創業から40年ほど経っていますから、長いつきあいの会社が多いのではないですか。」
「比較的よいお客がついているように見えますが、どうして借金が増えていったのでしょう。」

 会社の問題点だが利益率の悪さと、従業員などの社内マネジメントの悪さがめだつ。
「個々の工事の単価はどんなものなのですか。」
「利益は一割ぐらいですか。もう少し思い切った値段で経営してもいいのではないのですか。」
「従業員についても思い切って辞めてもらうほかないように思うのですが。何人かは定年をとうに過ぎていますし、雇用を続ける理由がないように思いますが。」

 しかし、社長はすっかり自信を失っている。もう経営を続けるのは嫌だという。
「でも、いま経営をやめたらどうやって生きていくのでしょう。」
「分かりました。では、破産しましょう。破産自体はそれほど難しいものではありません。」
「破産を決意してください。いいですか。もう後戻りはありません。」

 それでも、破産時期を延ばすことにした。8ヶ月ほど先に設定したのだ。普通は8ヶ月なんて伸ばさない。破産を決めたらすぐ実行というのが原則だ。
「破産は8ヶ月先にします。」
「その間に、いくつか来ている仕事に対応してください。思い切って利益率2割を目指してください。」
「安い仕事は思い切って仕事を断ってみてください。どうせ倒産するのです。死ぬ覚悟で高い単価で勝負してください。」
「注文を断るという経験をしてみてください。」

 この会社、古いつきあいのある顧客からの注文について値段交渉をし、一旦断った。相手会社はびっくりしたらしく、しばらく交渉を控えたようだが、2週間ほどすると今度は高い単価で注文をしてきた。この会社は古いつきあいある会社からの注文を断ったことがないのだ。

 会社は厳しい状態だが、事業は継続し、少しずつだが経営はよくなっている。少しずつだが社長の自信も回復している。