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№437 中小企業家同友会「労使見解」 賃金差別は許されるか。

№437 中小企業家同友会「労使見解」 賃金差別は許されるか。
 中小企業家同友会では「労使見解」を発表して、労使の正常な関係、共同して事業を実現していく関係を模索している。

 同一労働同一賃金という言葉がある。これは、同じ仕事についていれば同じ賃金が必要だという考え方だ。確かに、同じ性能を持つ商品であれば、同じ価格であるのが自然だ。しかし、人は物とは違うので、そう単純には割り切れない。

 例えば、同じ仕事であっても、年功によって賃金の違いがある。これは熟練による仕事の質の違いがある。あるいは、長く職場にいることで職場のリーダーとしての役割を果たす点で、若い労働者とは労働の質に違いが出る。会社というのは歴史的な蓄積で利益を上げていくのだから、この蓄積に対する貢献も考慮されて良いかもしれない。

 パートと正社員との賃金の違いがある。判例は雇用形態の違いに基づく賃金の格差を是認している。派遣労働者と正社員とでも労働者が受け取る賃金は開きがある。これは、雇用形態によって労働の質に違いがあるということを前提とした議論だろうと思う。中小企業にとっては、パートで補充することが不可欠な場合もある。

 しかし、原則はやはり同一労働同一賃金だろうと思う。同じ仕事をしながら10年間パートで勤めた人と、10年間正社員として勤めた人との間に賃金的な格差があるとしたら、経営者はどこに賃金格差の根拠を求めるのだろうか。パートや派遣は、安い賃金の代名詞のようになっており、根拠無く賃金を安くしているようにも見える。

 会社は人で成り立つ。
 「士は己を知る者の為に死し、女は己を説ぶ者のために容つくる、今、智伯は我を知る」 とは史記列伝、刺客列伝に出てくる予譲の言葉だが、彼は主,智伯のために死を賭して行動した。こうしたあたりも理解する必要があるように思う。

 また、パートや派遣が増えることで日本社会全体の労働の質が低下するという問題もある。賃金とは労働の対価であるが、劣悪な労働条件であるということは、その程度の労働としてか見ていないということだ。安い商品の質が下がるように、労働だって安くされれば質はさがる。その場合には社会全体の生産性だって低下するんじゃないだろうか。