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№332 黙示の合意と派遣労働

№332 黙示の合意と派遣労働

せっかく誰でもウェルカムブログをめざそうと思ったのですが、
今日はかなり専門的だ。

派遣労働をめぐる有名な判例松下プラズマディスプレイ事件というのがある。請負として派遣労働者を受け入れるいわゆる偽装請負に続いて派遣労働に切り替えようとした事件だ。原告は派遣労働者となることを拒絶し、直接雇用を申し入れた。

本件の最大の問題は形式的には請負契約となっている状況下にあって、労働者と派遣先との間で直接の雇用関係があるかどうかと言う点だ。

地裁は否定し、高裁は「黙示の労働契約」の存在を認めた。高裁は請負の名のもとに派遣されていたが、実際には直接雇用であったと認定したのだ。その際、偽装請負そのものが労働者供給契約(職安法44条)となり公序良俗に反して無効(民法90条)だと判断した。

黙示の労働契約というのは、契約書などではっきり雇用契約がなくても、実態として労使関係があれば労働契約があったと認めようというものだ。これは実態があればそれを認めるという論理だから、事実が重要ということになる。

偽装請負契約が無効かどうかは法的判断の問題であって、実態の問題ではない。そのため、高裁がなぜ、わざわざ「無効」という議論を使っているかが問題になっている。

悪いことをやればそれは無効だ。それは確かにそうだ。だからと言って、雇用契約があるとみなすことはできない。高裁はそれを「みなす」として原告を救済したと考えられる。「みなす」という理屈は法律上立ちにくいので、「黙示の合意」を利用したということになる。高裁の論理は飛躍があるようにも思う。

しかし、考えてみれば、偽装請負をした松下プラズマ社は、直接的な指揮命令関係は得たいが、労働法によって保護された義務は負担したくないと考えたのだろう。松下プラズマ社の意図はあくまで直接指示できる労働者を確保したいというものである。その実態は直接雇用でもよいように思う(賃金が問題ですが)。請負は、義務負担を免れるための「衣」でしかない。この「衣」の存在はないという意味で民法90条違反は使ったのかもしれない。

この件は最高裁が弁論開始決定をしたということらしい。通常、最高裁が弁論を行う(実質審理を開始する)場合は、下級審の判断を覆す場合だ。現状では高裁判断に批判的判断を下す可能性が高い。