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№233 相続税の課税価格の計算方法について

№233 相続税の課税価格の計算方法について

 こういうテーマは弁護士の私が書いて良いものかと思うが,勉強ノートであるということでお許し下さい。

 さて,前回での不服審査事件であるが,相続税の課税価格の計算方法が争点となった。問題点は遺産分割協議が終了した後に,新たな財産が出てきた場合に税務上どのように処理されるかということである。

 相続税法55条は「その分割されていない財産については、・・・民法・・・の規定による相続分・・・の割合に従つて・・・課税価格を計算するものとする。」としている。
 この「相続分の割合」をどのように解するかが本件では争点となった。

 この点,積み上げ方式と穴埋め方式があるということだ。審判所は穴埋め方式だと判断した。
 積み上げ方式というのは,新たに出てきた財産をとりあえず法定相続分で分けたことにして,申告するというものだ。兄弟3人で,後から3000万円の預金が出てきたら,それぞれ1000万円ずつ相続したものして課税価格を決めようと言う方式だ。

 穴埋め方式は,それまで,長男がすでに1000万円もらっていたら,全体で4000万円の遺産であると考える。この場合,法定相続分は1333万円づつとなる。しかし,長男は1000万円もらっているから追加して,取得する分は333万円となる。残りの2667万円のうち,約1333万円づつを残りの兄弟がそれぞれ取得すると考えて,課税価格を決めるという方式だ。

 税理士さんの話によると,普段は積み上げ方式でやっていることが多いという。しかし,審判所は穴埋め方式が妥当であるということだ。法律論から言うと,穴埋め方式が妥当で,審判所はこれに従ったということになる。コンメンタールもそうなっているらしい。

 この事例でややこしいのは,後から出てきた未分割財産が預金である点だ。というのは,預金などの可分債権は当然に法定相続分で分割され未分割にならないとするのか最高裁判例だからだ(最判第3小法廷,昭和30年5月31日判決)。これとの整合性はとれない。しかし,これはおそらく最高裁がまちがっているのだろう。これは変更されるべき判例のように思う。最高裁の考えは,実務の実態や当事者の意思からかなりかけ離れている。