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№206 取締役の賠償責任

№206 取締役の賠償責任
 取締役は会社に対して忠実義務がある。忠実義務と言っても広範なもので,何が忠実義務となるかは責任追及する者が特定し,立証しなければならない。忠実義務違反の中の一つに法令遵守義務というのがある。代表取締役が法に触れることを承知で行為し,会社に多大な損害を追わせた場合には,その取締役は会社に対して賠償責任を負担する。

 例えば,廃棄物を法の手続きによらないで処理した結果,県知事などから除去命令が出された場合,会社は当然の事ながら除去費用や社会的信用の失墜という損失を被ることになる。この不法投棄が社長の指示であれば,社長は会社に対して責任を負わなければならない。

 しかし,法に触れると言っても単純ではない。ゴミを大量に山の中に捨てれば違法性は明らかであるが,豆腐製造工場が豆腐製造の副産物である「おから」を非常に安価で第三者に売却した場合はどうだろうか。

 おからを相場に比較して100分の1の値段で売却したとしよう。豆腐会社にとっては,ほっとけば廃棄物として捨てるしかないものをたとえ100分の1でも有償で売却できるのだから損はない。さらに,トンあたり100円付けるから引き取ってもらったらどうだろうか。業者としてはお金を出してでも引き取ってもらえば,廃棄物として処理するよりも安価なので企業にとっては利益だ。

 廃棄物は廃掃法に従って厳格に処理することが求められる。この「おから」の場合,本当はゴミであるのに,有価物として販売したという脱法行為として評価されることになる。その場合は廃掃法違反となる。そして,行政によってなんらかの制裁が加わった場合会社は損害を被ることになる。

 「おから」事件は我々の間では非常に有名な事件で業者は廃掃法違反で処罰されている。しかし,こうした法律上の解釈が必要な場合に,取締役は会社に対して責任を負うだろうか。取締役は会社によかれとして行った行為であるし,実際,利益になった。世の中の全ての法律を知っているわけではない。

 しかし,食品生産に携わる者であれば,「廃棄物」の定義は知っていなければならないだろう。食品生産に携わる社長としては「廃棄物」とは何か知っていなければならない。

 以上は代表取締役の場合だが,単なる取締役の場合だったどうだろうか。取締役は業務を執行しないから監視義務を負担するに過ぎない。

 このように,取締役の責任というのは非常に難しいものなのである。