三井逸友の中小企業政策と「中小企業憲章」(花伝社)を読み始めた。
中小企業家同友会ではかねて中小企業憲章制定運動を展開し、最近政府も「中小企業憲章」を閣議決定した。中小企業憲章そのものは法的拘束力があるものではないが、政策や法解釈の指針として機能している。三井逸友さんはEU小企業憲章を我が国に紹介し、それが日本での中小企業憲章制定運動の発端となった。
まだ第一章を読み始めたばかりだが、第一章では戦後の中小企業研究を概観している。
私の場合、企業政策と言えば大企業政策中心のような感じがあり、中小企業政策はどちらかという福祉政策に近いというような印象を持っていた。中小企業を未熟で弱い存在としてとらえられ、それを補強することで社会の雇用や経済の発展を促すというのが中小企業政策となっているのではないかと思っていた。
もちろん、これは私の中小企業政策に対する偏見なのだろう。しかし、三井さんの第一章を読む限り、少なく無くない中小企業研究は中小企業を大企業の雇用調整政策やリスク分散政策のたまもののように思っている節がある。こうした研究も、いかにこうした不平等や不正義を是正するかという視点があるのだろうが、私に言わせればやはり大企業がまずあって、その上で中小企業を考えるという思考パタンではないかと思ってしまう。
私は社会に果たす中小企業の積極的役割がまずあって、そのために大企業はどのようにあるべきか、社会経済政策はどうあるべきかという思考方法が正しいように思う。私たちの周りで中小企業と無関係なものはない。自動車だって部材の調達から最終ユーザーの手に渡るまでの間、中小企業なくして語ることはできない。新しいことは中小企業からも大企業からも始まるが、実践のためには全て中小企業の関与が不可欠だ。
世の中にはたくさんの人がいてたくさんの考えがあり、たくさんのライフスタイルがある。多様な価値観がが持続的に共存するためにはそのニーズに応える企業が必要だ。さらに、誰もが幸福であるこのと前提として雇用が保証され、安定した労働条件が必要だ。中小企業の発展はこうした条件を満たしていく。
三井逸友さんが紹介したEU小企業憲章、我が国の中小企業憲章はこうした中小企業観に立っている。このような中小企業観は洋の東西を問わず普遍的な原理だと思う。少なくとも自由主義経済を選択する限り中小企業の役割は必ず存在する。なぜなら、多様な価値観、不断の創造性が要求される社会だからだ。