名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

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№35 中小企業法務指針 その1 戦略的法学

 中小企業が直面する法律問題は様々あるが,中小企業法務としての独自分野があるとすれば,企業の自律性確保の手段としての法律という点があるだろう。どのような国であっても少数の大企業が存在する。中小企業の多くは大企業との取引に大きな比重がかかっている。そんな中,中小企業が大企業との間で対等な取引関係を実現し,仕事や商品に対する正当な価格を獲得するためには法的知識が役に立つ。独占禁止法や不正取引防止法,下請け代金法も役に立つ。民法や商法についても,当然役に立つ。例えば,継続的取引を一方的に打ち切る親会社に対しては「権利の濫用」という民法の理念が機能する。独占販売の契約を締結しながら,別の商流を作り上げてライバル社に商品を卸していれば,競業避止義務などを活用できる。日常的な取引でも下請代金法を念頭に入れて契約を進めれば少しずつではあるが不当な要求をはねつけることができる。  
 ところで,法律はトラブルを回避するとか,トラブルがあった場合に被害を最小限にとどめて解決するとかいった機能を果たす。しかし,中小企業法務にあってはより積極的な役割を担っていると考えなければならない。中小企業は現場での情報から新たなニーズを引き出し,事業を展開する。市場との距離は大企業よりは遙かに近く,絶えざる創造性で事業を発展させていくというのが中小企業の特徴である。ところが,中小企業が正当に得た情報も,大企業がかすめとっていく例は枚挙にいとまがない。そんな中,法律を利用することにより,より確かに利益を確保し,さらに事業を展開することも可能である。つまり,法を利益を生み出す方向で積極的に活用するという戦略的な法学という視点が大切である。