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№978 精神疾患のある従業員にどう向かい合うか。

№978 精神疾患のある従業員にどう向かい合うか。
 産業医の言動が不法行為となって賠償責任を認めた珍しい事例があるので紹介したい(さいたま地裁H23.10.25、判時2138号、81頁)。
 安易な励まし、甘えるなといった叱咤などは要注意だ。

 原告は自律神経失調症で求職中だった。そのため、会社の勧めもあって、会社の産業医と面談することになった。自律神経失調症という病気はよくわからないところがあるが、この患者については「いつ急に不安になるか自分でも予測がつかず、妻や知り合いと話をしていても不安になる」ということがあった。

 判決によると次の事実が認定されている。

 面談に際して産業医は「それは病気やない、それは甘えなんや。」「薬を飲まずにがんばれ。」「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。」などと力を込めて言った。
 原告は、面談途中から、嗚咽が漏れないようにハンカチを噛み、下を向いて体を震わせながら涙を流していた。

 この事件の判決からは患者が下を向いて涙をながしているのになおも産業医ががんがん言った様子が浮かんでくる。おそらく患者はよほど悔しかったのだろう。誰だって自律神経失調症の状態はいやにきまっている。「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。」などとくどくどと説教されればますますつらくなるだろう。傷口に塩を塗るような言われ方をしてさらに傷つけられれば何とか一矢報いたいと思うだろう。

 判決文は続く。「一般に、うつ病や、ストレスによる適応障害などとの関連性は容易に想起できるから、自律神経失調症の患者に面談する産業医としては、安易な激励や、圧迫的な言動、患者を突き放して自助努力を促すような言動により、患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り、そのような言動を避けることが合理的に期待されるものと認められる。」

 こうして、産業医に注意義務違反を認め、60万円の支払いを命じた。