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№2314 事業譲渡の債務承継の回避

№2314 事業譲渡の債務承継の回避

事業譲渡によって借金を切り捨てることは可能です
 事業譲渡の大きな目的の一つに,大きな債務負担から解放されるというものがある。つまり,譲渡会社に借金を残し,新会社に事業だけ移すというものだ。こういうことが倫理的に許されるかどうかは置くとしても法律上可能だ。

会社分割により事業を譲渡した事例(東京地裁H29.10.27.判時2400号83頁)
 この事例は酒造事業を会社分割によって移転させた。この会社Y1は不動産投資に失敗して多額の借金を抱え込み,この借金からなんとか解放されて,酒造事業を生き残らせる戦略を立てた。
 
 この時に債務を引き継がないという契約内容にして,分割によって借金だけ残して事業を譲渡したのだ。

新会社への責任追及
 この場合,詐害行為取消権といって譲受会社(新会社)に責任追求ができる制度がないわけではない。しかし,実際問題としてかなり難しい。この事例でも新会社への不動産の移転が詐害性有りとして新会社への責任追求がされた。

 裁判所は次の理由で否定している。
 不動産の価値に対して多額の抵当権が設定してある。そのため,不動産の価値がなくっているため(法律上は責任財産を害しないという表現をします),譲渡自体は債権者を害するものではないとした。

 なお,本件では分割譲渡の後に抵当権が抹消されている。この点,裁判所は事業譲渡後の抹消は詐害行為取消権とは無関係とした。つまり,譲渡後は新会社は何をやっても自由なのだから抵当権抹消についてとやかく言われる筋ははないというのだ。

会社法22条,商号続用による債務の追求
 この事業譲渡に際して,商号を続用する場合は債務を承継してしまう。債務承継を遮断するためには免責登記が必要となる。最高裁は会社分割も事業譲渡と同様に解釈してこの条文の類推適用している。そこで,この免責登記がされたということになる(「商業登記の栞13 免責の登記」登記研究674号97頁参照)

 本件では次のような免責登記がされていた。そのため,借金を引き継がないということになった。
「当会社は,平成25年5月1日吸収分割により分割会社である被告Y1から事業を承継したが,被告Y1の債務について,被告Y2との被告との本件吸収分割契約において被告Y2が承継するとされた債務を除き,弁済する責任を負わない」

本件の整理
 本件は実に巧妙だ。事業を譲渡し無傷の会社として,借金は旧会社にそのまま残してしまった。時系列からすれば次のようになる。この場合,巧妙なのは抵当権の抹消を別会社R1にさせている点だ。おそらく,R1は,Y2の債務返済資金の融資を受け,それで株式を購入したのだろう。

   平成23年ころ
酒類製造業部門などと不動産事業部門に分けた
   平成24年12月26日
酒類製造業を目的とするY2会社を成立した
   平成25年3月4日
酒類製造事業を事業譲渡する吸収分割を実施
   平成25年5月1日
免責登記
      平成25年5月24日
Y2会社株を全株R1社に譲渡
              譲渡代金は2億2900万円
              この譲渡代金で酒造工場の土地など抵当権を抹消

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