№2177 「工楽松右衛門」事件
「工楽松右衛門」ブランド
原告NPO法人高砂物販協会は「工楽松右衛門」(くらくまつうえもん)が江戸時代に開発した帆布を忠実に再現して,町おこしブランド「松右衛門帆」の販売を始めた。ウェブを見るとかなりまじめな取り組みで,商品の品質も高いようだ。帆布職人育成にもとりくんでいる。
類似品の登場
ところが,被告は「倉敷 工楽松右衛門帆布本店」と表示して,一般的な「8号帆布」を使用した商品の販売を開始した。朝ドラ「まんぷく」で粗悪類似品が多数出てきたシーンを思い出してしまう。
これは原告から見ると許せない
不正競争防止法訴訟の提起
原告は被告の販売行為は品質誤認表示当たる行為で,不正競争防止法2条1項13号(現行14号)違反として販売の差し止め,損害賠償請求を求めた(大阪地裁H29.3.16判時2392号73頁)。
商品の品質を誤認させる表示であるか
裁判では「松右衛門帆」が商品の品質を表すものであるかが問題となった。
つまり,消費者の目からみて「松右衛門帆布」という表示が,江戸時代の回船用帆を忠実に再現した帆布であるという品質に関する認識を持つかどうかが問題となった。この場合,「消費者」と言ってもいろいろある。
判決は地域おこしに冷たかった
この点裁判所は「全国一般消費者」を基準に,原告開発の「松右衛門帆」が特定の品質であるという認識を持つかどうかを基準にした。その上で「『松右衛門帆』が,工楽松右衛門が創製した特定の品質ないし内容の帆布を意味するとの認識を有するとは認められない。」とした。つまり,ブランドとして確立していないので保護の対象とならないとした。
さらに,被告の「松右衛門帆本店」という表示は伝統あるブランドイメージを持つとしても,特定の内容を持つ特殊な布というほど内容を特定できないとしている。つまり,「誤認表示」というからにはかなり具体的な品質イメージをいだかないと不正競争防止法上の保護には値しないとしたのである。
誤認混同のおそれとは言っても誰の間で誤認混同するか考えるべき
しかし,ブランドは何も全国つつ裏まで知られる必要は無い。インターネットが発達した現代社会では特定の消費者層はかなり製品を詳しく調べている。「工楽松右衛門」という言葉で検索してその意味をさぐり,伝統的手法で製作された帆布製品がほしいという思う層を全国一般消費者と同じにすることはできないように思う。誤認混同のおそれというのもこうした消費者層の分析なくして考えられないような気がする。この判決は問題があるように思う。
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