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№2161 注文者からの指図

№2161 注文者からの指図

請負では仕事完成は請負人に任されています
  請負契約では注文者(施主)の思いを実現することになるが,それは最初の契約で決まる。どんな仕事の内容は最初に決まっていて,それをどんな方法で作るかは請負人の裁量に任されている。いつ,どんな風に作っても,納期までに完成させれば文句は言われない。

 そうは言っても,施主のために作るので,仕事の途中でいろいろ追加の要望が入れば,それに従わざる得ない場合も多い。契約内で収まれば,そのまま請負代金をもらうし,追加工事であれば,追加料金をもらう。

無理な注文には応じる義務はありません
 そうは言っても,無理難題を言ってくる顧客もいるだろう。建築で言えば,建築基準法違反になってもいいから増築してくれとか,構造上無理があるが,パイプを一本入れてくれとか,そんな時はどうしたらいいのだろうか。そう簡単にお客さんの要望を断ることはできない。

 法律上の原則から言えば,無理である場合には,施主にきちんと説明する義務があるとされている。説明を尽くしてもなおも,指図があり,無理を承知でやらせるような場合には,請負人は結果に対して責任を負わない(民法636条)。

施主の指示があっても免責されない場合もあります
 施主の指示があった,無理があると言って説明したとしても,免責されない場合が出てくる。これがやっかいなところだ。

 判例は注文者はシロウト,請負人は専門家,いくら施主からの指示があったからと言って,専門家なのだから役に立たないものは作ってはいけない,指示を拒絶する義務があったとするものが散見される。

例えばこんな事例
 石積みの土台が危ないので,それに継ぎ足すのは危険だと警告したものの,施主の指示で強行したところ,崩れてしまったという事例では崩れる石積みを作った請負人に欠陥に対する責任を認めた(東京地裁S30.10.28)。

 地下ガレージの設置が建築基準法違反になったが,施主に指示に従って作り上げたところ,普通乗用車が出入りできない結果となった。裁判所は強行に指示して作らせたものではがあるが,ガレージである以上自動車が出入りできるものを作らなければならないとし,請負人の責任を認めた(東京地判H3.6.14判時1413号78頁)。

 建築基準法違反を承知で建物の位置を施主に指示され,その通り建築したところ,竣工検査が通らず,登記できない事例では,注文主が内容を理解した上で強硬に主張したことから,請負人の責任が否定されている(東京地裁H.15.1.24)。

 つまり,ちょっと過酷な結論だが,
 ① 専門家として問題点を説明する。
 ② 施主が強行するよう指示しても,再度説得する。
 ③ 時には仕事の拒絶も覚悟しなければならない。

最近の興味深い事例
 システムのプログラミング作業などではこの拒絶義務はかなり複雑になる。最近の
興味深い事例は次の通りだ。

 東京高裁H25.9.26金判1428号16頁 スルガ銀行事件
 東京高裁H26.1.15 第一法規事件
 札幌高裁H29.8.31 旭川医大事件

 いずれも,プログラム作成過程において指示,説明,拒絶の各関係が問題になった事例だ。この解説は別途記事にします。

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