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№2152 生命保険,退職金と相続

№2152 生命保険,退職金と相続

 社長の死亡に備えて,会社では生命保険をかけておくことが多い。社長の生命保険で会社の借金を返して身軽にしたり,死亡退職金として扱って遺族の相続税対策に使ったりする。この生命保険の取り扱いについては弁護士の間でも曖昧にしていることが多い。

死亡退職金
 死亡退職金は死亡によって発生する。生前の会社に対する貢献を考慮して死亡時に支払うのだが,退職金規程の定め方によって,相続財産になったり,ならなかったりする。受取人について何も定めがなければ法定相続分に従って退職金は支払われる。

 しかし,退職金によっては残された家族のために支払われる性格の退職金もある。受取人の順位が定められているタイプの退職金は相続財産を構成しない。例えば,受取人を妻と定めるというようにした場合には会社の意思としては原則として妻に対する特別な給付ということになる。(最高裁S62. 3. 3判時 1232号103頁)。

 社長が亡くなって,退職金を誰に渡すかまで決めるような場合も同じだ。死亡退職金を社長の妻に渡すという総会決議をした場合には,たとえ子供があったとしても妻に渡すという内容である以上,相続財産とはならない(東京地裁H.28.7.27)。

生命保険
 生命保険は相続財産とはならない。
 例えば,社長が跡取りを受取人として高額な生命保険に入ることがある。保険料も高額になる。この保険金は法律上は相続財産とはならない(税法上は相続財産として参入されてしまう)。本件契約の対価として発生する債権なので,親の財産を相続したという訳ではないからだ(最高裁S40.2.2)。

 これでは跡取りばかりが優遇されて不公平だということになるかもしれない。
 生前贈与といって,生きている間に財産が分けられていると,他の相続人は取り戻しができる場合がある。私たちはこれを特別受益という言葉でよんでいる(民法903条)。遺言で特別に資産を譲った場合でも特別受益になり取り戻しの対象になることがある。こうした取戻権は遺留分という言葉でよんでいる。

 生命保険も特別受益として考え,遺留分侵害が起こりうるという考え方がある。
 最高裁は原則としてこれを否定している(H16.10.29)。

 しかし,最高裁は完全に否定しているわけでもない。「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものである場合」には特別受益として考慮されるという。

 どんな場合に特別受益となるかについては,結局,支払われていた保険料が大きかったり,保険料が実質的に貯蓄と変わらない意味だったり,他の相続人がほとんど財産を得られなかったり,いろいろ金銭的な公平さを考慮して決めることになるのだろう。

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