名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№2127 医療法人の持分払い戻し

№2127 医療法人の持分払い戻し

平成18年医療法改正、医療法人から持分という発想がなくなりました。
 平成18年医療法改正(平成19年4月1日施行)により医療法人解散時の残余財産は国,地方公共団体,他の医療法人に帰属することになった。「医療」というのは「営利」ではないことから法人がいくら「利益」をあげても出資者に利益を還元することはだめだということになった。

持分返還しなければならない医療法人もあります。
 しかし,平成19年3月31日前に設立された法人については出資者への還元が許される。いまでも90%ぐらいの医療法人が改正前法人になっているので,この区別は大きい。

 改正前会社・・・持分有・・・出資の返還
 改正後会社・・・持分無・・・返還されず(国庫などへ)

 ただし、返還されるかどうかは定款の記載よるので注意を要する。また、返還請求が権利濫用として禁じられたり、減額されたりすることがありうる。
 
出資の返還額はいくらになるでしょうか
 出資の返還時期は①解散時,②退社時と大きく2つに分かれる。

 その返還額は解散時もしくは退社時の財産額で決められていく。最初は2名が100万円ずつ出し合って,出資額200万円ぐらいで始めた医療法人が,10億円ぐらいの価値を持てば,それぞれ5億円づつ持ち分を持つことになる。

 関係者が仲違いして,医療法人の社員をやめるとなると,5億円返還しなければならないということになってしまう。
 特に,こういう問題が起きやすいのは相続の時だ。医療法人の場合,利益や財産が半端ではないのでどうして骨肉の争いが起こりやすい。理事長は誰がなるのかとか,持ち分をいくらで評価するとか,それはそれはたいへんな事態が起こる。

税金だって半端ではない
 多くの医療法人では福祉施設など外郭団体を作って,利益をいろいろな方法で還元して個人の所得にしている。そうでもしておかないと税金を支払ったり,遺留分を支払ったりする場合に現金が出てこないからだ。生命保険も役立つことでしょう。

 なお,改正前法人について,持分を返還する場合,単に出資額(上記の場合100万円)でよいのか,法人の価値(上記の場合5億円)であるかについて長く法律上の論争があった。

最高裁はこのように考えています
 最高裁はこの問題についてと中退者の社員に対しても,法人の評価額(上記の場合の5億円)を支払うべしとの判決を出した(H22.4.8)。これは,法律の規制がない以上,定款に従うべきだ,定款に何も記載がなければ全額返還だとしたのである。我々はこれを定款自治と呼んでいる。ただし,常に全額返還しなければならないかと言えばそうでもない。

 途中払い戻しが「権利の濫用」になる場合は制限されるという。つまり、禁じられたり、減額されたりすることになる。この事件は乱用事例かどうかさらに審理するよう高裁に差し戻している。この場合、資産の返還によって法人の存立が危うくなるような事態は避けるべきだという点がポイントだろう。医療法人は「医療」という公益を担っているので、この公益性を優先する判断がされるのではないだろうか。

  名古屋E&J法律事務所へのお問い合わせはこちら