賃金体系を変えたり、使用者にやめてもらうような場合、私たちは経営者に対して同意書や辞表をとっておくように指導する。労働者と使用者との関係は契約関係で結ばれているため、労働者の意思の表明は非常に重要だからだ。
こうした事情は労働者にも分かる。ここでハンコを押してしまったら後戻りはできない。そのため、私たちが労働者の立場から相談を受けたら絶対にハンを押してはいけないと逆のことを指導することになる。
弁護士というのは誰の味方になるかによって違ったことを言う。それは依頼者の利益第一、依頼者ファーストの精神からだ。
同意書がいったん出てしまうと裁判の場でこれを覆すことはかなり難しい。
同意の効力を崩すためには、その同意が労働者の自由な意思のもとに行われていなかったことを立証しなければならないからだ。
最近、退職金に関する最高裁判決が出された。これは合併に伴い変更される労働条件について、労働者の同意書が取り付けられた事例だ。合併後、就業規則は変更された結果、この労働者の退職金は実質的には0円になるという大きな不利益が生じるに至った。
最高裁は労働契約も契約である以上、労働条件の変更には労働者の同意が必要だとした。 その上で、この同意は「自由な意思に基づいてされたもの」である必要があるとした。何が自由な意思であるかについては、「労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為(同意)がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容などに照らす」必要がある(最判H28.2.19、判時2313号119頁)。
経営者は指揮命令権を持つ、職場の力関係からすれば経営者の力の方が強い。そのため、ややもすると経営側は強引に同意書を取り付けようとする。時には恫喝を加えたりもすることがある。時にはうそを言ったりする。しかし、本当の経営者は労働者をきちんと説得しきらなければならない。いい加減なことを言うとその分、どこかで痛い目にあう可能性がある。
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