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№1784 システム開発と多段階契約

№1784 システム開発と多段階契約

 システム開発の場合、なかなか先が見通せないため段階的に契約を結ぶことがある。東京高裁平成27年5月24日判決はこの点を示した興味深い判決だ(判時2279号21頁)。
 
 この事件は「顧客にウェブ上での製品マニュアルのダウンロード,新商品の注文,製品の使用方法の確認等を可能にする『サポートWebシステム』」の開発を依頼した事件だ。第一審認定事実によると、契約は次のような段階を経ていた。

 
フェーズ  内容  予定時期  見積額(円) 
フェーズ1  要件定義及び基本設計  H23.11~H23.12  5,970,000
フェーズ2  詳細設計及び開発  H24.1~H24.5  11,380,000
フェーズ3  総合テスト(導入,操作指導,最終確認)  H24.6~H24.7  4,760,000
                                                                      
 事業者はフェーズ1及び2については納品し代金の支払いを受けた。ただ、フェーズ2の支払いについては次のフェーズ3の契約があることから180万円の値引きを求められたため、これに応じた。ところが、発注者側はフェーズ3の発注を断った。

 なお、フェーズ3の契約については変更され、請負代金が増額している。

 原告側がはフェーズ1~3までは契約書としては段階を経ているが、実態は一つの契約だとして、途中解約に伴う損害賠償請求した。これは契約が履行されていれば得られた利益を追及した。

 判決は、契約が各フェーズごとに見積もりが出され、契約が締結されている以上、それぞれ完全に独立した契約だとした。2段階まで実施したからと言って、当然にフェーズ3の契約締結を約束しているわけではないとした。

 また、フェーズ2終了時に次の契約に期待して値引きしているわけだが、高裁はこの時点ではまだ契約締結段階になく、特別な期待できる状態にないとしている。事案の経過から見て、次の契約で値引き分を取り戻すとお互い認識していたのであるから高裁の判断は過酷な面がある。

 システム開発のように先行きが不透明な契約については、確かにスケジュールや費用など不透明部分が多く、段階に応じて契約することは双方にとって有益だと思われる。

 しかし、契約の段階が進むに従って不確定要素は徐々に減少していくことや、その段階に至るまでに相当の労力をつかうことがしばしばある。こうした事情を考えると、第三段階において契約締結義務を認める余地も十分あるように思う。

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