№1772 私傷病、障害者に対する配慮
業務とは関係ない病気、障害によって就労が困難になった労働者に対して雇用主としてはどのような対応をするべきだろうか。あるいは、障害者を雇用したものの就労がやはり困難という場合はどうだろうか。
私傷病による就労困難については、就業規則が定められていることがある。休職期間を設け、休養に専念してもらい、職場に復帰する。原職復帰できるかどうかは難しいところである。ある仕事では就労できないが、別の職種では就労可能であれば考慮すべしというのが最高裁の立場である(最判H10.4.6判時2279号125頁)。
この時に原職が何であったかが重要な争点となる。たとえば、採用時一定の能力が求められていた事情があればその能力まで回復したかどうか、復帰可能性の判断基準となる。しかし、特定されておらず、一般職である場合には他の業務への就労可能性が検討されなければならない。
しかも、就労可能性については労働者側が配置可能性がある職場があることを立証すれば、休職事由が消滅したものと推定される。あとは雇用主側が配置不可能であることを立証しなければならない。それは組織内の情報を労働者側が獲得することに限界があるからだ(第一興商事件H24.12.25労判1068号5頁)。
これが「障害者」である場合には、さらに障害者基本法が障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことにより雇用の安定をはかるべしを定めていること(19条2項)や、発達障害支援法が発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力をしなければならないと定めていること(4条)が考慮されなければならなくなる。
雇用時に発達障害があることが判明している場合はこうした法律の要請は強いだろう。後に判明した場合についても一定の配慮を要する。しかし、これらの義務は努力義務であって法律上達成するべき義務ではない。
この場合に雇用を維持しなければらないかついては、労働契約時に期待された内容が基準となる。その上でどの程度配慮するかは限界がある。東京地裁は採用後アスペルガー症候群であることが判明して就労困難として「自然退職」となった事例ついて次のように判示している(H27.7.29判時2279号125頁)
「合理的配慮の提供義務も、当事者を規律する労働契約の内容を逸脱する過度な負担を伴う義務を事業主に課するものではない。」
「雇用安定義務や合理的配慮の提供義務は、被傭者に対し、障害のある労働者のあるがままの状態を、それがどのような状態であろうとも、労務の提供として常に受け入れることまでを要求するものとはいえない。」
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