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№1637 老人を食い物にするビジネス

№1637 老人を食い物にするビジネス

 高齢者は体も脳も能力が低下する。老人は生活が質素だから年金だけでも随分なお金がたまっていく。数千万円ということも実は少なくない。若い頃に蓄積した財産もある。

 東京の事例だが悪徳な不動産業者が高齢者の土地をだまし取るという事件があった。
 被害者は大正14年生まれで,売買契約時87歳だった。認知症の診断を受け,契約直前には自宅で転倒して以降は「徐々に身の回りのことをひとりでできない状況にあった」

 被害者は都内に土地と家を持ち,生活の本拠としていたが,不動産業者に言われてこの土地を売却してしまった。

 契約内容は次の通りだ。
 ① 死ぬまで一生住むことができる。
 ② 売買代金を毎月3万円ずつ払っていくので,生きているうちに生活費を獲得できる。

 ところが,都内の土地でありながら被告主張によると売買代金は357万円だという。契約書には「36万円」と記載されている。
 被告業者は契約直後に土地を転売してしまい,さらに第三者は借入を起こして抵当権までつけてしまった。

 土地をだましとって,何度も転売を繰り返し,抵当権までつけてしまうというのは暴力団関係者など悪質な事業者がしばしば行う手立てだ。

 判決はこのような悪質な取引は「公序良俗」に反し,無効とした(東京地裁平成27年1月14日判時2250号29頁)裁判はこうでなくてはいけない。しかし,注目するべきはこうした明らかな不合理な契約でも契約としては一応成立している点だ。

 この事例は明らかな悪質な事例であるが,老人を相手のビジネスでは悪質だとみなされてしまうような事例もある。ひとたび「悪徳」のレッテルを貼られてしまうと,インターネット社会では大きな打撃になる可能性もある。

 私は老人が持っている財産を生きているうちに現金に換えて楽な生活をするという考えそのものは必要に思う。しかし,こうしたビジネスは悪いやつにひかかると悲惨な結果を招く。この事例も勝ったから良かったが,負ければ家を出なければならない。

 こうしたビジネスを始めようという人はやはり弁護士とよく相談して,老人の幸福を本当に考える体制,つまりコンプライアンスを万全にする体制を作りあげていく必要がある。