№1606 性同一障害による差別と企業運営
性同一障害による性別変更した者がゴルフクラブへの入会などが拒否された事例がある。
クラブ側は「既存会員の不安感や困惑,協議会での混乱等により被告クラブが築き上げてきた伝統や会員の一体感の喪失という深刻な不利益が生じる」としている。たとえば,「生来男性であった原告が女性用の浴室やロッカールームを他の女性とともに利用することに伴って生じる強い不安感や困惑が機具され」,ゴルフ場の「催物に参加する際には,ティーの位置や参加するべき競技会等について混乱が生じる」と主張している。
こうしたゴルフ場側の気持ちも分からなくもない。しかし,静岡地裁は「憲法14条1項,国際人権B規約26条の趣旨に照らし,社会的に許容しうる限度を超えるもの」として入会拒絶は違法であると判断した(H26.9.8,判時2243号67頁)。この判断に対してはゴルフ場側は控訴している。
性同一障害については「性同一障害の性別の取扱の特例に関する法律」が定められ,裁判所の審判により戸籍上女性として扱われている。性同一障害が疾患であるとして社会的に認知され,社会はこうした人々を女性として扱うことを法律により定めたといえる。社会全体が性同一障害による差別を防止,解消しようということになっているのであるから,私企業とはいえ,こうした社会の動きに無関係であることは許されない。
最近差別の問題で多いのが外国人の取扱だ。
宝石店が外国人であることを理由に店舗から退去を求めたことが違法とされた事例(東京地裁H11.10.12判時998,3頁),公衆浴場の経営会社が外国人の入浴を一律拒否することは違法であるとした事例(H14.11.11判時1806,84頁)などがある。
外国人のゴルフクラブへの入会拒否が問題になった事例も少なくない。多くが在日韓国人が日本国籍を有しないということを理由に入会拒否したことが違法であるかどうかが争われている。これについては判決は勝ち負け分かれている。
中小企業の分野でも差別などの問題は意外なところで現れるかもしれない。たとえば,こうした事例は旅館業などではどうなるだろうか。人を採用した場合にイスラム教徒という理由で不採用にすることは許されるだろうか。こうした問題はいつも起こる訳では無いが,経営者としては一応どこか頭の片隅に入れておく必要があるだろう。