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№1548 垂直統合の戦略的分析

№1548 垂直統合の戦略的分析

 マイケル・ポーター「競争の戦略」も15章まで来た。あとちょっとで読み終わる。
 14章は「垂直統合の戦略的分析」だ。

 垂直統合というのは,仕入れ→生産→流通→販売などサプライチェーンのどこかを一つの企業内にまとめることだ。大企業などはさらにコストダウンや技術吸収をねらって川上か川下に垂直統合を検討する。

 マイケル・ポーターの分析はもっぱら垂直統合するだけの力のある企業を対象にしている。中小企業は無関係かというとそうではない。

 それは垂直統合するメリットのない場合には当然他企業との連携が必要となる.大企業なのだから自分でやれるはずのことを中小企業に発注するのはそれなりに理由があるからだ。

 大企業ではけっしてできないことを中小企業はやってのけることができる。大企業が垂直統合しない理由を考えることで中小企業の存在価値が正確にわかり,大企業との交渉力も向上するはずだ。

 マイケル・ポーター垂直統合を決断する上で重要な論点として経理計算上及び経理管理上の結果という2つの論点を提示する。垂直統合することかえって経費がかかることもある。2種類の業界で経営しなければならない管理上のコストもある。

「統合するというのは,供給業者や顧客からの技術情報の流れを断ち切ってしまうことである。」

 つまり,材料や部品と言った供給業者はその業界で研鑽された情報を持っている。それはその業界の中での競走によって初めて得られたり,磨かれたりする情報も少なくない。あるいは,小売の現場情報は小売業者同士の競争の中で研ぎ澄まされる。顧客の動向にも敏感になっていく。こうした情報は垂直統合によって断ち切られてしまう。逆に,垂直統合しないということは,こうした情報を得たい,こうした情報に基づいた製品が欲しいということになる。

 あるいは,垂直統合することによって多くのインフラを抱え込むことになる。大きな経済変動があったときに身動きがとれなくなる可能性がある。中小企業の場合,経済変動に伴い自分自身を変化させることは難しいことではない。垂直統合がこうした柔軟性を奪うとするならば,垂直統合しないということはこういう柔軟性を求めているということになる。

 このように,大企業向けの垂直統合に関する戦略的分析であるが,中小企業の分析に役立つ。それは「敵を知り,己を知らば,すなわち百戦危うからず」,お客さんである大企業の動きを知る上では役立つということになる。