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№1499 専有知識の拡散と中小企業の技術革新の必要性

№1499 専有知識の拡散と中小企業の技術革新の必要性

 マイケル・ポーターの「競争の戦略」(日本ではダイヤモンド社が出版)は1980年に出版されたものだ。実に40年も前の著作だがビジネス分野では教科書中の教科書になっている。少しずつ読んでいるのだが,「専有知識の拡散」という言葉が出てきた。

「特定の企業(あるいは供給業者または第三者)が開発した製品,ならびに生産技術は,時とともにその専有性が薄れていくものである。技術は一般化し,知識は広がっていく」これは全く正しい。

イノベーションを発揮した企業は当初はうまくいくかもしれないが,やがては専有知識は拡散していき,競争力を失っていく。それどころか後発の企業の方がより競争力を身につけることがある。

イノベーションによって特別な知識,ノウハウを身につけた企業は競争優位を維持するためには
  ① 既存のノウハウと専門技術を守るか。
  ② 優位を保つために常に技術開発するか。
  ③ 技術以外の分野で戦略上の地位を発揮するか。
のいずれかの手を打たねばならない。

 ポーターの指摘は当たり前のことかもしれないが,この単純な原理を指摘することは意味深い。中小企業の場合,オリジナルな技術自体がそれほど高いという訳ではないため知識は拡散しやすい。

 経験でしか得られないような知識,たとえば高度な研磨の技術であっても拡散しつつある。それはコンピュータを駆使しした高度な工作機械によって一般化していく。熟練に何年もかかる技術が,工作機械を動かすだけの知識があれば他に伝わってしまうという今では現象が起っている。

 このような拡散はグローバリゼーションにあっては国境を越えて生じる。一昔前は日本の中小企業の技術力は圧倒的だったが,今では韓国が追いつきつつある。時には追い抜いている。中国でも裾野産業は徐々に実力をつけつつある。ASEANもそうだ。

 「専有技術の拡散」は国境を越えて起こり,それに対する対策も世界の動きを見据えて進められなければ中小企業の明日はない。中小企業の場合,「小ロットの個別要求」という特性がある。高技術が拡散するとしてもサービス業に近い対応や新しい物に対する高い対応能力というようなものは絶えず進歩していき,外国企業の大きな参入障壁になっているような気がする。