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№1486 あなたが事業再生の決断をするのなら

№1486 あなたが事業再生の決断をするのなら

 私の知っているある会社は何年前会社を分割する決断をした。

 当時,先代が何年にもわたって,膨らましてきた借金があり,毎月毎月資金繰りに苦労していた。利益があるもののほとんど全てが銀行への支払いに消えていくという状況下にあった。そこで,この会社は会社分割によってこの苦難と決別する決意をした。つまり,新しい会社を作って,事業と借金を分離させるという手法だ。

 このような手法は借金を返済しないという決断であるため,銀行はもちろん社会的信用を失う。新会社が生き残るという保証はない。しかし,社長はまだ若い,永久に返せない借金のために人生を使うよりは新天地を切り開いた方がよいと判断したのだ。

 分割後,経営はもちろん堅実に組み立て,当たり前にやまらなければならない経営の諸原則を一から勉強し,確実に実施してきた。新会社は生き残り,徐々に大きくなっている。社員も増えていった。自宅は失われたが,最近新たに自分の自宅を持てるまでになった。子供も跡を継ぐという。数年前の決死の決断が今日を築き上げた。

 こうした決死の決断が常に成功するとは限らない。
 この会社が生き残ることができた最も大きな要因は日頃の人間関係を大切にしてきた点にある。先代は確かにいいかげんな経営で金は銀行にあるぐらいに思って平気で借金を膨らましてきた。しかし,長く事業をしてきたということはそれなりの人間関係を作り上げてきたということだ。跡を継いだ社長も仕事の上では誠実に周りに応えてきた。

 だから,事業再生の決断後も多くの人たちが助けてくれた。仕事もくれたのだ。

 また,事業を一からやり直そうと,勉強を始めたことも大きい。中小企業では当たり前のことが中々できない。事業開拓のための原則的な活動も中々できない。新会社は専門家などの意見も意欲的に尋ね,可能な限り実行してきた。

 結局やり直しを行う決断というのは当然人生をやり直す決断だ。
 生まれ変わった気持ちで,やりきれなかったっことを教科書通りにやり通す,こうした誠実さが再生成功の成否を決める。