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№1484 医薬分業の限界事例

№1484 医薬分業の限界事例

 病院経営は一般の経営とかなり異なる側面を持つ。それは医療行政によって経営が大きく変化する点である。この点の厚生労働大臣の行政裁量はきわめて大きいため,病院や薬局経営では「お上」の意向に中々逆らうことができない。

 医薬分業は医師と薬剤師とが業務を分担することによって,それぞれの職務に専念することができ,国民医療の質的向上を図るものとされている。病院と薬局を切り離すというのはけっこう大きな政策だと思うが特に新しい法律ができている訳ではない。

 結局どうやって規制するかというと,保険医療機関保険薬局の指定によって病院や薬局の設立を規制するという方式になる。
 そして,健康保険法65条6号というのがあって,いくつか要件があるほか,「申請に係る病院若しくは診療所又は薬局が、保険医療機関又は保険薬局として著しく不適当と認められるものであるとき。」は指定しなことができるとしている。

 「著しく不適当」というのはほとんど意味のない言葉で行政裁量は限りなく広い。日本の行政関係の法規はこうした抽象的な文言がほとんどであるため,本来行政を統制しなければならない法律であるはずなのに,この抽象的文言のために白紙委任に近くなってしまう。

 たとえば,医薬分業については保険局及び保険薬剤師療養担当規則で規制されていて,医薬分業のために薬局と病院は構造上の独立性が必要だとされている。いったいこの規則は何が根拠になっているかほとんど分からないのだが,医療行政においては保険薬局指定という強力な権限を背景に大きな威力を持っている。

 とうぜん,行政裁量の行き過ぎというものがあって,最近保険薬局指定拒否処分取消しを命じる判決が出された。これは法律的にも経済的には全く独立している病院と薬局が区分同じ建物になってしまった事例だ。同じ建物になってしまった経過も本人達の意思ではなく,市街地再開発の結果なってしまったのものだ。

 東京高裁はこれはやりすぎということで保険薬局指定拒否処分の取り消しを命じた(H25.6.26,判時2225号43頁)。その趣旨は医薬分業の趣旨は経営的な独立にあるのだから法的にも運営の実際でも分離している以上に過剰な規制は禁止されるべきだというものだ。