№1452 人は何のために働くのか?
当たり前のことだが,働くこと,つまり労働に満足しても,成果,つまり仕事の生産性があがらなければ意味は無い。しかし,労働者が意欲的でなければ成果はあがらない。このあたりのジレンマは常に経営者が悩むところだ。
「人をやる気にさせる」という原理はインセンティブ・システムという言葉で語られることがある。1960年代,米国グラハム・マズローは人の要求を生理的要求,安全要求,愛情要求,尊厳要求,自己実現要求など要求を多面的に分析してモチベーションの意味を明らかにしようとした。マズローの欲求階層説と呼ばれている。人々の要求は多様であり,多様な要求を客観的分析しようとした点で分かりやすさがある。でも,必ずしも実証的ではないようだ。
インセンティブについては別の研究もあって,ハーズバーグという人が,仕事の局面を2場面に分けて分析した報告がある。彼の研究は仕事中にどのような場面で特別に感情が動くかを調べたものだ。
その結果,仕事のうちでも,仕事の達成,承認,責任といった仕事そのものについて特に大きな感情が動き,会社の政策や,上司との関係など職場環境についての感情の動きは比較的低いというのだ。つまり,人は仕事そものにより多くの満足を感じるという考えかたとなる(2要因理論)。
ともかく,仕事そのものに満足の源泉があることは大昔からいわれていたことだ。
ローマの詩人ヘシオドスは「人生とは労働の積み重ね」とうたった。ある研究によると,自分の意識を忘れてしまうほどの集中は仕事に行われ,余暇におこることはまれだという(チクセントミハイ1990年)。つまり,仕事の意味が問われることで,仕事へのモチベーションは高まっていく。
仕事の意味を具体的に考えていくことは働く人たちの欲求を引き出す上で非常に重要だということになる。かつては人は機械のように扱われていたが,徐々に高度な自律性が求められるようになった。人は責任を持たされ,それを達成することに喜びを感じる。仕事につくことで社会とつながり,人間関係や社会的な地位を得ることができる。もちろん,賃金や福利厚生,職場の人間関係も重要なことだろう。
この仕事と欲求の具体的関係については多くの経営学者がとりくんでいる。
その中でも重要なキーワードは「自律性」ではないだろうか。職場での権限を与え,自律性を生むとは意欲的労働者を作る上で重要なのだが,一方でそれが加重な負担になることもある。意味のな自律性は職場の秩序を乱していく。だから,自律性にかかわる研究ほど興味深いものはないと思う。