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№1435 原発問題をどのように考えるか

№1435 原発問題をどのように考えるか

 私は原子力発電については廃止の立場だ。福島第一原発の事故は余りにも衝撃的だった。原子炉はメルトダウンし,格納容器も一部だが破壊された。核燃料が臨界に達していれば,関東一円も避難の対象となったことだろう。

 原子力エネルギーの膨大な量は人類では制御の領域を超えている。福島ではこの先,放射能汚染の後遺症のことも心配しながら復興に向けた活動をしなければならない。住民の被爆量とその後の健康被害の追跡については体制が整っているとは言いがたい。核廃棄物を処理するシステムもめどが立たないまま今の経済ばかり考えて付けを未来世代に回していくあり方は倫理的とは言いがたい。

 今回の事故をふりかえって,大きな問題の一つに「地元合意」というのがある。原子力発電施設に対しては「電源三法」によって補助金財源がつけられている。原子力発電所というめいわく施設を受け入れる代わりに地元に巨額の補助金が交付される仕組みになっている。福島では本当に地元合意はあったのだろうか。

 私たちの常識では「合意」がされるにあたっては地元に放射能事故の重大性について十分な情報が開示されてしかるべきだ。補助金が出されるとは言っても,どんな「めいわく」どんな「被害」を引き受けることになるか十分な情報開示と納得のプロセスが必要不可欠だ。今の日本の制度には原発についてはその合意のプロセスが存在しない。

 原子力発電は
   ① 地点選定(立地選定)
   ② 建設準備(原子炉等規制法による審査)
   ③ 建設
   ④ 運転
 の4つのプロセスに分かれる。

 地元同意はこの地点選定までに行われる。通常この地点選定のために20年,30年とかけている。たとえば,上関原発は立地選定が終わったのだが,計画が始まったのは実に昭和60年代のことだ。この長い立地選定の間に巨額の補助金投入が投入され,立地選定,電源開発基本計画組み入れとともに,電源三法による補助金投入が本格化する仕組みになっている。

 この20年,30年という長期にわたる期間の間に,原発の危険性に対する国や電力会社の説明はない。あるのは事故は発生しない,安全審査は国に任せておけばよいというものだけだ。福島原発事故のような過酷事故が発生した場合の放射性物質放出量,その汚染範囲,避難の方法など事故発生を前提とした説明は全く存在しない。

 住民にしてみれば,事故は起きないことを前提の同意することになる。事故のリスクの説明はないのだから本来の同意とは言いがたいことになる。

 どうしてこんなおかしな事になっているのだろうか。
 本来はどうしたらよいのだろうか。

 公害等環境汚染にかかわる開発が行われる場合,我が国では環境アセスメントが必ず実施される。しかし,放射能汚染については環境アセスメントを実施しないことになっている。環境基本法13条というのが以前はあって,放射能汚染問題を環境問題として取り扱わないとされていたからだ。

 今回の事故で,環境基本法は改正され,環境省放射能汚染を扱うようになった。しかし,環境影響評価からは相変わらず除外されたままだ。今ある原子力発電所に対しても再稼働に際しても環境アセスメントは実施されてしかるべきだが,苛酷事故発生時のアセスメントは存在しない。


※ 電源開発基本計画は、旧電源開発促進法を根拠に経済産業大臣が決定していたもの。2003年10月の同法廃止に伴い、基本計画の機能は「重要な電源開発に係る地点の指定」(04年9月閣議了承)に基づく「重要電源促進地点」または「重要電源開発地点」の指定に引き継がれた。