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№1385 元社員が顧客情報を盗み不正利用した事例(№4)

№1385 元社員が顧客情報を盗み不正利用した事例(№4)

 顧客情報を盗んだ社員とそれを利用した会社の責任に関する大阪地裁の判例を紹介している(大阪地裁H254.11判時94頁)。
 (前号より続く)
   (前号より続く)
   №1 → http://blogs.yahoo.co.jp/lawyerkago/38580827.html  営業秘密とは
   №2 → http://blogs.yahoo.co.jp/lawyerkago/38581914.html  データを盗んだことの立証
   №3 → http://blogs.yahoo.co.jp/lawyerkago/38582041.html  営業秘密を盗んで利用したことの立証 
 
 【損倍賠償額】
 本件では不正競争の首謀者に対しては1億3923万円の賠償が命ぜられている。
 その計算式はかなり複雑なのであるが,考え方は次のようになっている。

 まず,損害額の算定は不正競争防止法5条2項を利用する。これは不正競争があった場合の損害について推定規定を設けている。これは,不正競争によって販売した数量に利益率を乗じて算出するのを原則とする。但し,そもそも被害者に販売能力がなかったりするような場合にはその限りで損害は制限されていく。

 判例では次のように考えた。

 まず,
 ① 被害者の売上激減と加害者の情報不正入手との間には因果関係があるとした。
 ② 被告の売上に対して原告会社が得ていた利益率を考慮した。この場合,被害者主調音利益率は退けた。
 ③ 被告の売上のうち,当該情報に全く関係のない顧客は除外したが,少しでも関係ある顧客に関する売上は損害に含めて計算した。
 ④ 売上のうち,不正情報の利用と区別がはっきりしない分については,情報の「寄与度」,だいたい3割を考慮して算定した。

【営業差止】
 紹介の大阪地裁は不正取得情報を利用した営業活動の停止を命じた。判決主文は次のようになっている。
「被告は・・・面会を求め,電話をし,郵送物を送信するなどして・・・契約を締結し,契約の締結を勧誘し,又は同契約に付随する影響行為をしてはならない。」
「被告は・・・磁気媒体又はこれらを印紙した紙媒体を廃棄せよ。」

 不正競争を理由にして営業停止まで追い込むのはけっこう難しい。本件はよほど悪質な事例だったということができる。

 本件では情報を盗用した事実は認められているため,情報を利用した営業行為の差し止め自体は可能性がある。本件の特色は「使用自体の差し止めだけでなく,本件顧客情報に記載された顧客らに対して,営業を行うことの禁止を求めている。」

 この点,裁判所は「被告らの不正競争の態様の悪質性,結果の重大性からすれば,被告らによる不正競争を差し止める必要性は高い。」また,「本件顧客情報を記録した磁気媒体,紙媒体の使用のみを禁止したのでは,その差し止めの目的を達することは困難である。」「本件顧客情報に含まれる個々の顧客らに関する情報について営業秘密性が失われるまでは,差し止めの必要性は存続すると解する」