名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1377 介護施設での転倒事故

№1377 介護施設での転倒事故
 紹介の事例は,ディサービス施設の送迎中に,老人が立ち上がり車を降りようとして転倒し,大腿骨を骨折してしまった事例だ(東京地裁H25.5.20,判時2208号)。

 老人は弱く危険と隣り合わせだが,介護事業は老人の「弱さ」故に専門性のある事業として成り立っている。介護施設での老人の事故に対して,施設はどこまで責任を負うべきなのだろうか。

 介護施設の中で最も多いと思われる事故が転倒事故だ。骨折を契機に気力も失い寝たきりになり,急速に体力も衰えてしまうことも珍しくない。苦労が加わり,場合によっては廃人にされたという悔しさもわいてくる。「介護の専門」に対する期待裏切られた思うだろう。老人の転倒事故は介護施設にとってかなり重たい問題となる。

 法律上は介護事故については,まず注意義務の程度が問題となる。
 つまり,専門機関としてそれなりの高度な注意義務を負っているかどうかという問題だ。病院の入院など病院の場合は高度な注意義務が課せられている。

 東京地裁の事例では法令に定める人員配置基準を満たす体制の下,必要な範囲で利用者の安全を確保する義務があるとした。つまり,本件では厚生労働省の人員配置基準を安全確保の基準として義務を設定した。この基準を守っていなければ施設に対する責任が発生する。

 さらに,基準を満たした上で,老人の転倒が「予見可能であったか」ということが問題になる。この事件では被害者を車内に着席させたのちに,別の入居者を送迎車に乗せようとしてたところ,被害者が突然立ち上がり自動車を降りようとした際に発生した。裁判所は,厚生労働省の施設基準の範囲では,このような突然の行為は予見することができなかった,予見する義務は無かったと判断した。

 高齢者の場合,レベルはさまざまで,身体能力や精神能力,家族の状況など個別に事情が存在する。このような事情下で転倒の予見をどう考えるかは難しい問題だ。老人介護施設としてはこうした転倒に関わる事例を不断に勉強し,事故防止に役立てていかなければならないだろう。

 なお,本件は転倒後,直ちに病院に連れて行かず,翌日になったことについては責任を認め,20万円の賠償が命じられた。これは治療が間に合ったからであるが,もし手遅れになっていれば,大きな賠償責任が生じることになる。